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ゴーレム使い  作者: 灰色 人生
バトランタ攻防戦

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251/255

特別編 クリスマスイベント

 ――白き夜に灯る、ささやかな奇跡――


 ヴァルドの森、野営地。

 夜は深く、雪は静かに降り積もっていた。


 焚き火の赤が、霧と雪に滲み、世界を柔らかく包み込む。


 黒霧の調査という緊張感に満ちた行軍の最中――

 だが、この夜だけは、どこか空気が違っていた。

「……今日は“クリスマス”らしいわよ」

 ぽつりと、鷺沼沙羅が言った。


 勇者一行の誰もが一瞬、言葉を失う。


 それは“日本”で過ごしてきた、当たり前だったはずの日常の名だった。

「クリスマス……」

 篠崎悠斗が小さく呟き、苦笑する。

「この世界に来てから、曜日も季節感も曖昧だったけど……そんな日だったな」




 ◆


「なぁに暗くなってんのよ!」

 空気を切り裂くような声。


 アンジェラだった。

 巨大な体で腰に手を当て、焚き火を見下ろす。

「いいじゃない! お祭りなんでしょ? だったら祝わなきゃ損よ♡」


「……祝うって言っても、何を?」

 ムスが首を傾げる。

 アンジェラはニヤリと笑った。


「決まってるでしょ。食べて、飲んで、騒ぐのよ!!」

 その瞬間、彼女はどこからともなく巨大な袋を引きずり出した。


「ちょ、ちょっと待て! それどこから……」

 ヨーゼフが突っ込む。

「細かいことは気にしない♡あたし、街で食料補給した時に“それっぽいもの”買っておいたのよ」


 袋の中から現れたのは、干し肉、保存酒、甘い焼き菓子、干し果物。


 どれも高級ではない。

 だが――この極寒の森の中では、奇跡のようなご馳走だった。




 ◆


 焚き火を囲み、即席の宴が始まる。


「……こうして見ると、あんたたち、本当に普通の若者だな」


 ヨーゼフが酒をあおりながら、勇者たちを眺める。

「戦場に出てると忘れがちだけど……今日は、それを思い出す日か」

 エスメラルダ――聖王国の神官の一人が、静かに祈りを捧げた。

「神よ。異界より来た者にも、そしてこの地に生きる者にも……今宵だけは、安らぎを」

 雪が、ふわりと舞い落ちる。


 その光景を、ユウマは少し離れた場所から見ていた。





 ◆



(……クリスマス、か)

 日本にいた頃。

 家族で囲んだ小さなケーキ。

 妹――アゲハが、はしゃぎながら飾り付けをしていた姿。


 胸が、じくりと痛む。

「ユウマさん」

 振り返ると、篠崎悠斗が立っていた。



「どうしましたか?一人で。こっちかに来て一緒に食べましょうよ」


手に干し肉とドライフルーツを持ってやって来る。

「……そうだな」

 ユウマは空を見上げる。


 雲の切れ間から、星が瞬いていた。


「あ!流れ星がありましたよ。何を願いますか?」

 悠斗の問いは、優しかった。


「……大事な人ともう一度だけでも会いたいかな」

 ユウマは静かに答える。


「それだけでいい」




 ◆


 その時――

 焚き火の向こうで、アンジェラが大声を上げた。

「はいはい注目ーッ!!せっかくのクリスマスなんだから、プレゼント交換よ!」


「はぁ!?」

「こんな森の中で!?」

「てか!持ってきてないぞ!?」

 ざわつく一同。


 だがアンジェラはお構いなしに、袋から小包を投げ始める。


「ほらユウマちゃん! あんたにはこれ♡」

 受け取ったそれは、粗末だが丁寧に編まれた手袋だった。


「……これ」

「寒いでしょ?アンジェラ印の“怪我しにくい手袋”よ♡」


 ユウマは、思わず笑った。

「……ありがとう」

 それは、この世界に来てから、初めて心から出た言葉だった。




 ◆


 夜が更け、宴は静かに終わっていく。

 雪の中、焚き火が小さく爆ぜる。

 ユウマは手袋をはめ、目を閉じた。

 ――ユウマ。

 また、あの声が聞こえた気がした。

 今度は、はっきりと。

(……待ってろ、アゲハ)

 この世界がどれほど歪んでいようと。

 黒霧が何を孕んでいようと。

 必ず、辿り着く。

 白い雪が、すべてを覆い隠すように降り積もる。

 それは、嵐の前の、ほんのひとときの安らぎ。

 だが確かに――

 “人であること”を思い出させる夜だった。


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