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その3

前回読んでいただいた方、ありがとうございます。今回はサツキの回想メインです。荒い文章だとは思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。

 体育館裏。彼が来るのをサツキは待っていた。サツキが外国に行く事を知っているのは仲の良いクラスメイト数人と教師だけであった。でもどこからか話が漏れたのか噂になっている事を彼女は知っていた。そのせいか、外国に行くという事を強く意識していまい、時々くじけそうになる。

そんな時、彼から手紙をもらった。彼ではないかもしれない。でも良く見ていた教室の彼の特等席から飛んできた紙飛行機は、一番のエールだった。

 彼が息を切らせて走ってくる。なんて声を掛けようか。少しづつ少しづつ胸の音が大きくなる。胸を抑え、目をつむり息を吸う。

「ダメだ、やっぱり緊張する」

一度も話をした事はないけれど、なんだか上手く話せる気がする。彼もそう思ってくれていると嬉しい。

目を開けると彼が私の前にいる。やばい、顔赤くなってないかな。彼は息が上がってはいるが、そのまま口を開く。

「はぁ…はぁ…これ、紙飛行機」

まだ思考が回っていないみたい。私は悪戯っぽく言ってみる。

「もう…遅いぞ。アキト君」

彼は驚いた顔をしている。ちょっと可愛い。でもすぐに表情が変わる。頑張って真剣な顔にしているみたい。そのまま、一言。

「すみません…サツキ先輩」

「これって先輩が投げたんですか?」

私はちょっと考えたけど、意地悪するのは可愛そうなので、普通に返事。

すると、彼から思ってもみない言葉がきた。

「先輩、僕と接点ないですよね。先輩の事知ってますけど、しゃべった事ないし、学年も違うし」

少し、悲しかった。というか、もしかして自分で飛ばした紙飛行機の事忘れてたりして…。着ていた上着のポケットから彼からの手紙を取り出して見せた。

「これ。見覚えないの?私てっきりキミが紙飛行機飛ばしたんだとばかり思ってたんだけど。違った?」

彼の中で時が止まっているように見えた。私は彼が話出すのを待っていると、

「…えっ。あ、はい。いや、なんでそれを持ってるんですか。あの時先輩に届かなかったから、その後どうなったか知らなかったんです」

「まさかサツキ先輩が持ってるなんて」

彼は状況がよくわかっていないようで、しかめっ面になっている。でも思い立ったように言葉を続ける。

「先輩が…外国に行くって聞いて。きっと辛いんだろうなって思って。何かしたいとは思ったけど、知らないやつからいきなり頑張ってなんて言われてもって思って、それで…」

彼は照れているのか、混乱しているのか、頭を軽く掻いている。

正直、あの紙飛行機を見た時は何だろうと思ったけど、頑張れなんて書いてあるとは思ってもみなかったから、投げた人を探したら、彼だった。だから私は、

「うん…嬉しかったよ。それに、キミの事、実は知ってたんだ」

「アキト君、キミ………放課後良く教室で本読んでるよね」

彼はずっと口が開いている。そうとう驚いているみたい。

「いつもいるなーって思って見るうちにさ。その姿がちょっと気になっちゃってさ。それが誰かを調べたんだよ、ワトソン君。誰から教えて教えてもらったのかは内緒だよ」

どんなもんだいと言わんばかりに親指も立ててみた。アキト君は、ちょっと笑った。

「ははっ、先輩って結構しゃべるんですね。もっと静かな人かと思ってました」

「先輩、イメージと違って…なんていうかドキドキします。もう驚かされっぱなしだし」

「それは私も同じだよ、アキト君。いつも放課後一人で本読んでるから、外に紙飛行機飛ばすとかそんな事するような人に見えなかった」

「キミってさ。結構大胆だよねっ、ふふっ」

私はこの時間がすごく楽しかった。それだけに日本を離れなければならない事がとても辛い。まだこの二人だけの空間を思い出にはしたくない。

そう考えると、今まで抑えていたものにひびが入る。感情が漏れだし、一粒の雫が頬を伝う。

「あれ…なんで涙なんて出てくるんだろう。今すっごく楽しいのにっ…」

「変だな…誰の前でも泣かないって決めてたのにっ」

我慢しようとすると余計に流れてしまう。私はその場に跪いてしまう。手で涙を拭うけど、もう…止まらない。でも止めないと、彼を困らせてしまう。

彼は私のそばに来て片膝をついている。

「どうしたんですか先輩!」

今…なんで困らせてしまうなんて思ったのだろう。それよりもなんで私も紙飛行機を飛ばしたのだろう。彼の顔を見る。何かを伝えようとしているみたいだけど、私の涙を見て焦っている。

「えっ先輩!あのこれ、使ってください」

ポケットから出したのはハンカチ。それをもらってぐしゃぐしゃになった顔をぬぐう。

こんな姿を見せてしまって恥ずかしい。ハンカチを手放せない。風の吹く音だけが聞こえる。

彼は今どんな顔をしているのだろう。少しだけ手をずらす。

優しく、真っすぐな目で私の事を見ている。そんな真剣な表情にちょっとドキッとしてしまった。

「ちょっと、そんな見つめないでよ。……あっ」

「サツキ先輩、辛かったんですよね。我慢しなくても良いんですよ。泣きたい時は泣いたら良いんです。それが今なら、僕はそばにいます」

そう言いながら私の頭をなでる。その手は意外と大きくて後輩といえども意識してしまう。

「ばか…一応年上なんだぞ、わかってる?」

「…すみません。でもこうしたかったんです。ダメ…でしたか?」

「ううん、そんな事ないよ。キミはやっぱり大胆なんだね」

「先輩だから。サツキ先輩だからですよ」

「好きなんです、先輩の事が」

え?今好きって言ったよね。私の聞き間違いじゃないよね。

「えっ…と、キミは私の事が…好きなの?」

「好きです。僕はサツキ先輩が好きです。って何回言わせるんですか、結構恥ずかしいですよ」

彼は真っ赤に染めた笑顔で答える。

私は、なんだか変な気分。嬉しいけれど、素直に喜べない。先に言われて悔しい気もする。っていうか悔しいって何だろう。さっきも彼を困らせるとか思ったし…あっ。

…私も好きなんだ。アキト君の事。

「もう。キミばっかり先に言っちゃうんだから」

「ふふっ。すみません」

「こら、笑わないでよ。私だってキミの事、好きなんだから」

あれ、意外と簡単に言えた。きっと難しく考え過ぎてたのね。胸の中の空白が埋まった気がする。私の事を好きでいてくれる人がいるなら、外国でも頑張れる気がする。いや頑張るんだ。次笑顔で会うために。

彼のいない国で。

「アキト君、聞いて」

「はい」

「噂の通り、私は海外に引っ越すの。でも絶対、ぜっーたい帰ってくるから…」

「はい」

「…待っててくれますか」

「それって、プロポーズですか。先輩」

「僕は待ってますよ。1年でも10年でも。だって、僕らには『これ』があるじゃないですか」

彼はしまっていた紙飛行機を私に渡す。

「これが僕らを繋いだんですよ。運命でもなく、赤い糸でもなく」

「会いたくなったら飛ばせば良いんです。きっと届きますから」

「だから、サツキ先輩」

「うん」

「いってらっしゃい」

彼は私の手を引き、抱き寄せた。強引だけど軽い口づけをした。

「帰りましょう。もう暗くなっちゃいます」

「うん、そうね」

私たちは家路が別れるその道まで、手を繋いで帰った。

次に会える事を心に描きながら。

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