最終話
一応、終わりを迎える事が出来ました。拙い文章を読んでくださった方々ありがとうございました。
教室にいたときよりも夕日が強い。太陽は舞台を月に渡す準備をしている。時より強く吹く風が、桜の花びらを舞い散らせている。その光景は出会いなのか別れなのか、どちらでもイメージ出来る。思い出のスクリーンから戻ってきたアキトは、生徒玄関で靴を履き替えている。
僕が生まれてから、物心がついて今日の卒業式を迎えるまで、途方もない時間の中を歩いてきた気がする。でもそれと同じぐらい、サツキ先輩がこの学校を去ってからの1年も長かった。18年と1年じゃ比べようがないけど、先輩は時の支配を忘れさせるぐらい、僕の中にいたんだと思う。だけど、それも今日でお終いにしないといけない気がする。
前に進むには必要な事だろうと思うから。これからは新しい生活を送らなければいけないし、夢に向かう事もあるかもしれない。今はいないけどきっと気になる人も出てくるだろう。そんな時、思い出に引きずられてはいけない。
そうしようと心に決めていたけど、中々難しい。そんな簡単に出来たら、わざわざ、紙飛行機を飛ばしたりしていない。
そういや、紙飛行機はどうなったんだろうか。先輩が来てるわけないし、放っといてゴミにしてしまうのもなんだか忍びない。とりあえず、拾いに行く事にしよう。日も落ちてきてはいるけど、まだ少し眩しい。生徒玄関から校門までは直線。外には人影はない。校舎を見ると、何か所かライトが点いている。吹奏楽部以外にもいたらしい。そんな事おもいながら校門に向かう。
「…あれ、ない。なくなってる」
風が吹いていたとはいえ、飛ばしてから何時間も経ってはいないから、なくなるのはおかしい。
「はー誰だよ。仕方ない、一応様子見に行ってみるか」
行ったところで何かするわけではないけれど、ついでに思い出の場所を目に焼き付けのも悪くはない。
「もうこの学校に来ることもないだろうし」
そう言って、校門に背を向け体育館裏へと向かう。
体育館裏と言っても校舎と体育館の間で、日が良く当たるから僕は結構気に入っていた。なぜか芝生があり、手入れもそれなりにされていたので、昼食をよくそこで取っていた。受験が終わってからは学校に来ることもそんなになかったから、ついでとはいえ楽しみになっていた。
「でも誰かいたら恥ずかしいから、こっそり見てみよう」
体育館の壁からそっと身体を出す。
が、夕日でいまいち見えない。目を細める。
かといって身体を乗り出すのもなんだか気が引ける。誰がいるかはわからないが。
少し、目を凝らして見てみる。
……カサっ。
何か音がした。足元を見る。
紙飛行機がある。僕の元に戻ってきた。そっかそっか戻ってきたのか。探していたものが見つかったので僕は安心し……
「はっ?紙飛行機がなんでこっちに飛んできたんだ」
あまりの突然な事に身を乗り出してしまった。そのせいで、日を直視していまい、目が開けられない。いくらなんでも、もう学校に人なんてほとんどいないから、ここで待つ意味なんてないだろうに。それよりも、どうして紙飛行機を飛ばしたんだ。
「わけがわからない」
足音が近づいてくる。徐々に目も見えるようになってきた。でも、逆光ではっきりと顔を見る事が出来ない。
足音がなくなる。歩くのを止めている。
風が運んでくる香りは嗅いだ事がある。もう手の届く位置にいるみたいで。
今、目の前に、彼女がいる。目頭が熱くなってる。
そうか、先輩帰ってきたのか。おかえりって言わなきゃな。
「………おか…」
「…ただいま」
ちょっと。僕の声にかぶせないで下さいよ。先輩。
「少し背、伸びたかな。アキト君」
こんな再会の仕方はベタすぎます、先輩。
僕がさっきまで何考えていたのか知ってますか。
っていうか帰ってくるなら連絡くださいよ。サツキ先輩。
「キミの応援があったから、向こうでも頑張れたんだよ」
なんでそんな健気なんですか。余計に愛しくなってしまう。
「あーもう。どうしてそんな風なんですか。僕なんて今頭のなかぐちゃぐちゃで、上手く喋れなかったのに。もう、絶対どこにも行ったらだめですよ、先輩」
涙が滲んでくる。先輩が今僕の目の前に、僕に会いに来ている。
「もしかして、泣いてるの? アキト君」
「そりゃ泣きますよ。会えるなんて思ってなかったし」
「私も会えるなんて思ってなかったよ。でも紙飛行機が飛んできたから、キミはきっといるって思ったんだ」
先輩も涙をこぼしている。ポケットからハンカチを出して先輩の頬を拭う。
「このハンカチ、あの時と一緒だね。今日だって私がまた先に待ってたしね」
「そういえば。先輩は待つのも待たされるのも好きなんですね」
「そうじゃないよ、アキト君」
そう言って僕の手から紙飛行機を取り、飛ばした。
「ゆっくり飛んでるね。遠くまで行くと良いね」
僕にはちょっとわからない。首を捻ると、先輩は微笑む。
「私の思いも同じ。遠くにいてわかったの。遠くに飛ばしたい、遠くに届けたい。遠いから時間がかかる。だから待つの。時間をかけた分、私の思いも育った」
「だから、もう一回、届けたい」
紙飛行機は風に乗って飛んでいる。
僕は先輩をまっすぐに見る。そうしなければいけない気がする。
先輩は胸を手を抑えて、軽く呼吸する。
「アキト君、私はあなたが好きです」
先輩の飛ばした紙飛行機は、見失ってしまった。
でも彼女の思いは僕に届いた。いや、僕もその言葉を待っていた。聞きたかった。
じゃあ、先輩は?
待っているに決まってる。また紙飛行機が僕らを繋いでくれたんだから。
別れなんて必要ない。そんなものは捨てて、目の前の彼女を思う。
言う事なんて一つしかない。
「サツキ先輩、僕もあなたが好きです。もう先輩の手は離さないですよ」
そう言って彼女の手を掴み抱き寄せた。
抱き合ったまま話す二人。
「もう、相変わらず大胆だね。…後悔しないでよ。ふふっ」
「もちろんです。僕は先輩がいるだけで頑張れます」
サツキは、ポケットに手を入れ何かを取りだす。
紙飛行機のよう。それを軽く投げる。
「じゃ帰りましょう、先輩」
「うん。家にお邪魔して良いかな?」
「はい、良いですよ」
初めて会った時のように、手を繋いで歩く。
今度は最後まで道を違えずに。




