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第43話:混浴の誘惑と、隙を許さぬ全自動身体洗浄


 聖女セレスティアが魔女の塔に居座り始めた、共同生活初日の夜。

 朝食での「全自動配膳システム」による混乱が冷めやらぬ中、次なる戦場は塔の地下一階に位置する大浴場へと移っていた。


「さあアルド、一緒にお風呂に入りましょう。私が背中を流してあげるわ」


 脱衣所に現れた師匠エレノア・ヴェルベットは、身に纏う布面積が極限まで少ない『湯浴み用・極小タオル』一枚という姿で、妖艶に微笑んだ。

 タオルは胸の先端と腰回りをごく僅かに隠しているだけで、豊満なプロポーションと雪のような肌が、湯気越しに無防備に晒されている。


「魔力は水分を介して最も効率よく伝達されるの。肌と肌を直接触れ合わせ、互いのマナを湯船で循環させる『混浴魔力譲渡』は、師弟の絆を深めるために不可欠な儀式なのよ」

「いいえ、アルド様。一日の汚れと共に魂の穢れを落とすには、聖女である私との『清浄なる洗礼の儀(一緒に入浴)』が必要ですわ」


 師匠の隣には、セレスティアが立っていた。

 彼女が纏うのは『洗礼用の白透布』。水に濡れれば完全に肌が透けてしまうであろう極薄の聖布を一枚羽織っただけの、神も目を逸らすような破廉恥な装いである。


「し、師匠、セレスティア様……! いくら入浴前とはいえ、お二人ともあまりにも無防備すぎます! それに、入浴は一人ずつ順番に済ませるべきです!」

「あら、全然分かってないわね」


 またしても声が揃う二人。

 右からは豊満な肌を晒した師匠が、左からは清らかな香りを漂わせた聖女が、僕を挟み込むようにして大浴場の扉へと迫ってくる。


(ば、馬鹿な! 水場で足を滑らせやすい密室に、この極限まで薄着の美女二人と同時に入るだと!?)


 そんなことをすれば、どうなるか。

 視界を遮るもののない湯船の中で、柔らかな肌が触れ合い、熱気と石鹸の香りが僕の理性を瞬時に焼き切る。入浴という大義名分の下で男としての「煩悩」が大暴走を起こし、僕の邪念という最悪の猛毒が、神聖なる湯をドロドロの汚泥(欲望)へと変質させてしまう!


(これも試練だ……! 『左右からの同時混浴要請』という、精神力と清潔さを同時に試す最強の誘惑。この極限状況下でも、決して相手に触れず、己の身を清めながら完璧な衛生状態を保つという、超高度なみそぎのテスト!)


 僕は覚悟を決めた。

 一緒に入浴すれば、必ず煩悩に支配され、過ちを犯す。

 ならば、僕が湯船に浸かるのではなく、「大浴場そのものを、一切の接触を許さず一瞬で洗浄を完了させる全自動の禊場みそぎばに改造してしまえば」いいのだ。


「承知いたしました、お二人とも! 完璧な入浴(洗浄)をお約束します!」


 僕は迫りくる二人の手から逃れるように、大浴場の扉を開け放った。


「えっ? ちょ、アルド様? 服を脱がずに何をして――」

「術式展開――水属性魔法『極高圧洗浄水流ジェット・ウォーター』及び、風属性魔法『全自動高速乾燥ブロー・ドライ』!」


 カチリ、と僕の魔力が、広大な大浴場の空間を強引に書き換えた。


「さあお二人とも、そのまま前へお進みください! 一瞬で全ての汚れを落とします!」

「進む!? 一瞬で!? ちょっと待っ――ひゃああっ!?」


 ズゴォォォォォォッ!!


 静かな脱衣所に、およそ入浴とは思えない、轟音と暴風が響き渡った。

 僕が展開した魔力によって、大浴場の入り口から出口に向かって『目に見えない水のレール』が敷かれたのだ。

 足を踏み入れた瞬間にレールに乗せられた師匠とセレスティアは、身動きが取れないまま、恐ろしい速度で大浴場内を前進していく。


 第一工程(洗浄)。左右の壁から噴出する超高圧の温水が、二人の全身を容赦なく打ち据える。

 第二工程(発泡)。頭上から降り注ぐ極上の高密度魔力泡(シャンプー&ボディソープ)が、二人を雪だるまのように真っ白に包み込む。

 第三工程(研磨)。空中に現れた無数の『高速回転する見えない水のブラシ』が、二人の全身の汚れをコンマ数秒で物理的に弾き飛ばす。

 最終工程(乾燥)。出口に仕掛けられた魔法陣から、台風並みの極大温風が吹き荒れ、濡れた髪と体を一瞬にして完璧に乾かし切る。


 スポァンッ!!


 わずか十秒足らず。

 大浴場の反対側にある裏口の扉から、全身ピカピカに磨き上げられ、髪の毛一本までサラサラに乾燥しきった師匠と聖女が、勢いよく廊下へと吐き出された。


「な、何これぇぇぇっ!?」

「わ、私の聖なるお風呂タイムが……暴風雨の中で揉みくちゃにされた記憶しかありませんわ!?」


 床に座り込み、目を回している二人の悲鳴が響く。

 僕は同じレールに乗り、服を着たまま(自身の衣服の汚れごと)完璧に洗浄・乾燥を済ませ、涼しい顔で裏口から降り立った。


「――アルド師範!! 大浴場より凄まじい水竜の咆哮のような音を感じ、急ぎ駆けつけ……な、なんとっ!?」


 その時、剣を抜いた王室騎士団長のシルフィアが廊下の角から飛び出してきた。

 彼女は、ピカピカに輝きながら目を回している師匠たちと、一滴の水すら滴らせていない完璧な状態の僕を見て、磨き上げられた廊下の上にガクンと片膝をついた。


「な、なんという……ッ!!」


 シルフィア団長はワナワナと震えながら、轟音を立てて稼働し続ける全自動大浴場を指差した。


「鎧を脱ぎ捨てるという、戦場における最も無防備で危険な『入浴』の時間を、わずか十秒足らずの移動時間に圧縮し、同時に完璧な衛生状態を保ち切る『極大高速洗浄陣オート・ウォッシュ』……! これならば、敵の夜襲を恐れることなく、全軍を常に清潔な状態で休ませ、即座に前線へと復帰させることができる! アルド師範、貴殿の武術はついに、衛生管理と行軍速度を同時に極限まで高めたというのか!!」


 目をキラキラと輝かせる女騎士団長。

 一方で、目を回していた状態からようやく復活した師匠は、虚無の表情でピカピカになった自分の腕を見つめていた。


「……信じられない」


 師匠は、ワナワナと肩を震わせた。


「私……湯船の中でアルドと背中を流し合って、石鹸の泡で滑る肌を密着させてイチャイチャする予定だったのに……。なんで私、ドワーフの鉱山で採掘された泥岩(でいがん)の塊みたいな、無慈悲で乱暴な水洗いされてんのよっ!!」

「おや、師匠? どうされましたか? 水圧が少し強すぎましたか?」

「アンタなんか……アンタなんか、一生ゴーレムの泥落としでもしてればいいのよぉぉぉっ!!」


 師匠の絶叫が大浴場の裏口に響き渡る。

 セレスティアも「こんな洗礼、教典のどこにも載っておりませんわ……」と呟きながら崩れ落ちていた。


 僕のステータス画面には、新たに【全自動洗浄機構ドライブ・スルー】と【戦場衛生の覇者】という、どんな泥まみれの魔獣の群れだろうと一瞬で無菌状態に磨き上げてしまいそうな、狂気の衛生管理スキルが刻まれていた。


 やはり共同生活での衛生維持とは、魔術よりも奥が深い。

 僕はさらなる修行の必要性を痛感しながら、目を輝かせるシルフィア団長に、とりあえず高圧洗浄時の正しい呼吸の止め方を教えるのだった。


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