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秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


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第89話「乗船」

◇◇◇





「……と、言われるがままに北部まで来てしまったが」


 魔法都市を出て、すっかりお尋ね者になったヴィルヘルミナは、道中で魔法を使ってお金を稼ぎながら北部の町までやってきた。ときには汚れた水源を元通りにして美しく豊かに。雨が降らず枯れた畑には命を芽吹かせた。そうして港町に辿り着くと、リロイの手紙を広げて、改めて読み直す。


『これを読む頃、私が生きていれば口頭でもお伝えできればと思いますが、何かを急かされるように手紙を(したた)めているというのは、なんともはや、自分でも不思議でなりません。ですが、それは今、考えるべきことではない』


 部下を失い、自身さえも死地に立った以上、いつでも命を落とす可能性はあった。それでもリロイは戦うことを選んだ。託すことを選んだ。


『彼らは魔法都市にいる人間の魔力を使って、アルベルの遺体に掛けられた封印を破壊するつもりです。そのために大勢の命を奪おうと襲撃計画を企てている。私が死ねば口も封じられたと思うことでしょうが、そうはいかない。何をしでかすつもりかは分かりませんが、襲撃計画を破綻させるためには強力な仲間が必要です』


 掻い摘んだ情報量ではヴィルヘルミナも手の打ちようがない。ただ魔法都市にいるだけでは、自分が最前線に立ったとしても多くの犠牲が出てしまうのは目に見えている。リロイの言葉には大きな意味があるはずだと信じた。


『北部の港町から東にある獣人の島へ向かってください。そこにいる人々は内向的ですが敵対的ではありません。上手く話を纏められれば命を救える力になる』


 そこまで読んで、ヴィルヘルミナは手紙を閉じてから溜息を吐く。


「……獣人かぁ」


 内向的であって敵対的ではない。そんなことあるわけがない、と不安が募った。なにしろヴィルヘルミナが知る獣人たちは、とにかく戦うことに命を懸ける者たちばかりの野蛮な種族だ。それこそ魔法使いたちの実力主義よりも、遥かに強さを重視する傾向がある。協力してくれるかの交渉など無駄だと思えたのだ。


「(厄介だな。連中は常に殺し合ってるとはいえ皆が長寿だし、おそらく千年以上前の個体がいる可能性も高い。そうなれば強さは桁違いだろう。私でも手に余る可能性がある。頼るどころか殺されたら笑い話にもならん……)」


 不安を抱えつつ、手紙にあった通りに港へ向かい、船を探す。殆ど人の乗らない大型の船が一隻だけあり、それが東の島へ連れて行ってくれるという。そんな危険な場所へ航海する理由は分からなかったが。


「……フレア・ベル号。これだな、手紙にあったのは」


 確かにそこそこ立派な帆船だ。漁船だの海賊船だのと比べて装飾もあり、品のある船なのが分かる。にも拘わらず乗船する人間はいない。不思議だった。


「ヴィルヘルミナ・デヴァルだな。その船に乗りたいなら乗せてやろうか」


「ああ、船の持ち主か。出来れば頼みた……い……んだが……」


 声を掛けられて振り向いた先にいたのは、まるで平民のような慎ましい服に身を包んだバルロアだ。あまりに似合っていないので笑いそうになった。


「威厳も何もない格好だな。お前がこの船の持ち主なのか?」


「グランサム家の懐事情をナメてもらっては困る。急遽用意したものだ、ウォルターの頼みでな。お前こそ北部に到着するのが随分遅かったようだが」


 知った顔と再会できたのは二ヶ月ぶりだ。嬉しさに安堵の笑みが溢れる。


「路銀を稼ぐ必要もあったし、思っていたより遠かったから。魔法を使うにも、あまり目立たない方が良いかと下手に使わなかったんだ」


「なるほどな。通りで我々より到着が遅かったわけか」


 バルロアは船員に指示を出して、出発の準備が始まった。


「ありがとう、バルロア。お前が味方になってくれるなんて思いもしなかった」


「当然だ。あれほど魔法に精通するお前を見ていれば分かる。魔法を愛する人間が邪法使いに堕ちるなど有り得ん。何かが動いているのだ、この件には」


 これまでは予見できていなかった大きな存在。危険な未来。いくらバルロアがこれまで実力主義に傾倒してきたとはいえ、世の中を悪しざまに見ることはなかった。むしろ安寧のためには必要な社会と捉えてきた。


 その全てを突き崩そうというのが、邪法使いだ。ヴィルヘルミナはとてもそれに該当するとは思えない。信じられない。ならば何が正しいかを選択するだけでいい。バルロアはかつての悪しき実力主義とは決別している。目の前の少女が進もうとする先にあるものは、あるべきもの(・・・・・・)だと断言できた。


「……ありがたい。心強いよ。ところでひとつ聞きたいんだが、我々というのは? まさか、お前以外にも誰か来てくれているのか?」


「おお。実はそのことなんだが、実に頼もしい同行者たちを揃えたのだ」


 紹介しよう、とバルロアがヴィルヘルミナをデッキへ連れて行く。先に乗り込んでいた者たちを見て、彼女は驚きのあまりに言葉が出てこなかった。


「彼女たちが、今回の同行者となるエセル寮の生徒たち(・・・・・・・・・)だ。非常に優秀な連中だから扱き使ってやると良い。課外授業として良い経験を積みたいらしい」

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