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秘術使いの理想郷─ヴィルヘルミナの物語─  作者: 智慧砂猫


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第88話「新たな味方を」

 稽古場の空気が一変する。それまでは和気藹々としていたのに、今はしんと静まり返って、それぞれが状況を理解するのに精いっぱいだった。ヴィルヘルミナでさえ頭では理解していても、現実を受け止めきれなかった。


「……何を言っている。リロイの、なんだって?」

「今朝、リロイの首が届いたっつってんだよ。そんで、だ」


 ジョーはバツが悪そうにうなじをガリガリと掻いて────。


「ヴィルヘルミナ。お前を邪法使いとの内通疑いがあるとして拘束する」

「ちょっと待てよ、師匠(せんせい)。ヘルミーナが何で邪法使いなんだ?」


 信じられない言葉に耐えられなかったフランチェスカが口を挟む。


「アタシらとずっと一緒にいたんだぞ。内通なんてできるわけねえだろ」

「そんなもんは俺が知りてぇよ、フランチェスカ。こいつは魔塔の決定だ」


 部屋の外で待機していた魔塔の魔法使いたちがぞろぞろと入ってくる。一気に物々しい雰囲気へ変わり、アレックスたちも息を呑んだ。ただヴィルヘルミナだけが冷静で、ジョーが言葉を発することなく口を動かすのを見つめていた。


『敵は魔塔にいる。南門で会おう』


 内通者は他に存在する。そして、その何者かはリロイを邪法使いたちに殺害させ、その罪をヴィルヘルミナに被せようとしていた。


「御同行願います、魔法使いヴィルヘルミナ」


 一人が腕を掴んで連れて行こうとした瞬間────。


「連れていけるのならやってみろ」


 呆れた子供だと腕を引っ張ったとき、まるで根でも生えているかの如く、ビクともしないことに驚く。ヴィルヘルミナの身体はまったく動かせなかった。


「おいおい。抵抗すんなよ、ヴィルヘルミナ。こっちも手が出ちまうぜ?」


 取り逃がす口実を作ろうとしているジョーの考えを察すると、これもまた良い演技の披露ができそうだと乗っかった。


「私に敗れた奴が偉そうに。リベンジでもしようと言うのなら無駄だ」

「そりゃどうか────ねっ!」


 拳の速さは僅かに緩い。目視で躱し、懐に潜り込んで足を払う。


「のわあっ!?」


 わざとらしくすっ転び、ジョーが即座に姿勢を正すが、その隙にヴィルヘルミナはざわつきが収まらないうちに部屋から逃げ出す。皆が後を追いかけたが、もうそこに姿はなかった。


 結界魔法によって通路を塞ぎ、自身の存在を認識させない。さっさとエセル寮を出た後は魔法で自分の髪を黒く、瞳を青にして外見を変えて逃げた。


「やれやれ……。何がどうなっているんだか」


 訳が分からないまま騒ぎから遠ざかっていく。ジョーの言葉通り、南門を目指して町を歩いた。外見を変える魔法が使えて良かったと安堵の息を吐く。既に連絡が取れているのか、町のあちこちでヴィルヘルミナの捜索が始まっていた。


 南門に到着した頃には、先回りしていたジョーが他の魔法使いに指示を出す姿がある。「俺は南門を張る。他の上級魔法使いにも此処以外の門を見張らせろ。絶対に町から出すなよ」と魔法使いたちを散らし、自分はポケットから取り出したキャンディを口の中に放り込んで転がしながら悠々と待機し始めた。


「随分と余裕だな、ジョー・ブルース教授」


「オウ、遅かったじゃねえか。何してやがった」


 目を合わせず、ジョーが周囲に魔法使いがいないかを確かめながら話す。


「リロイが殺されて魔塔内部もメチャクチャだ。ウォルターは今回の件から外れて、代理のジャクリーンが統制を取ってる。内通の疑いも、あいつが指示を出した。最後にリロイと話したのはウォルターとお前だけだからな」


 調査を頼んだ以上、担当しているエセル寮を離れるのであれば報告はしてあったはずで、ヴィルヘルミナもそこまでは想定内だ。ただ、リロイが殺されるとは思っていなかった。頼むべきではなかったと酷く落胆した。


「つまり、魔塔はウォルターを容疑者から外しつつ、標的を私に絞ったというわけか。困ったな……。何か良い案はないか?」


「ああ。それで、お前にコイツを渡しておこうと思って」


 懐から取り出したのは一通の手紙。受け取ったヴィルヘルミナは、差出人がリロイになっているのに気付いてすぐに封筒を開く。


 内容に目を滑らせ、困り顔で折りたたむ。


「……ジョー。お前はどうして私の味方を?」


 明らかに問題行動だ。魔塔の決定に逆らい、内通者の嫌疑が掛けられた者を手助けするのは違反になる。魔塔どころか魔法使いとしての今後も怪しい。にも拘わらず助けようとする理由が分からない。


 問いかけられたことに、ジョーはキャンディを噛み砕いて────。


「弟子の友達が悪い奴なわけねぇだろ。お前は良い奴だ、俺の信念に誓って断言する。だが、状況的には分が悪い。今はやるべきことをやれ」


 ポケットからキャンディを取り出してヴィルヘルミナに渡す。


「リロイは以前から、邪法使いに強力な魔法使いがいることを危惧してた。そのために、ある連中と交渉して味方に引き入れようとしてきた。手紙はお前に、そいつらの居場所を伝えるもんだそうだ」


 あまり長居しても目立つから、とジョーは歩き出す。


「ウォルターからの頼みだ。そいつらとの交渉を任せる、ってよ。ここから北の町にある港で船に乗れ。迂回路だから長旅にはなるが、東の島に頼りになる連中がいる。お前なら仲間になってもらえるはずだとよ」

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