シリウス君の場所 21
朝、目が覚めたら、泣き疲れて寝たせいか、頭がぼーっとしていた。目もなんだか重たくて、熱が出たみたいな感じがする。
「おい、マオ、大丈夫か?」
「マオちゃん」
私がぼーっとしていると、ユウト君とケントが来ていた。
「あれ。おはよう」
「あれ?じゃねえよ。おはようって時間でもないだろ。お前、まだ寝てんのか」
「今何時?」
「もうお昼だよ。朝に一度来たんだけどね。マオちゃん、まだ寝てたから一度帰ったんだ。シリウス君も来てるよ。今、おばあちゃん達に挨拶してる」
「!!」
シリウス君の名前を聞いて、「うっ」とまた、涙があふれそうになった。あんなに泣いたのに。私の涙タンクはとっくに空っぽになったと思ってたのに。泣いても泣いても、不思議と涙はかれる事はないみたい。
「おはよう、まおちゃん」
「シリウス君……」
私が振り向くと、優しい笑顔のいつものシリウス君がそこにいた。
「今日は、どこに行こうか」
「どこに?」
「マオちゃんの行きたい場所に行こうよ」
「行きたい場所?」
どこだろう。シリウス君とたくさん、いろんな場所に行った。もう、行ってない場所はないんじゃないかな。
それに……これが最後になるの?
「じゃあ、僕が行きたい場所でもいい?」
「シリウス君の行きたい場所?」
「うん」
「いいよ」
「じゃあ、マオちゃんが準備できるまで待ってるね」
頷いて、顔を洗って、皆の所に行くと、おばあちゃんがお小遣いをくれた。
「今日でシリウス君、帰っちゃうのね。寂しくなるわね。楽しんでらっしゃい」
「うん……」
私が外に出ると、おじいちゃんが車にエンジンを掛けていた。
「よし、じゃあ、行くか」
ユウト君が助手席に乗り、後ろの席の真ん中にシリウス君が乗って、両端に私とケントが車に乗り込んだ。
「まあ、暑いからな。涼しい所でゆっくりしてこい」
「?」
私はどこに行くか聞かなかったけど、着いたのは車で二十分位行った所にある、科学館だった。
「じゃあ、帰りはまた、連絡しろ」
「はい、有難うございます」
ユウト君が挨拶をしていて、私は科学館を見上げていた。
「シリウス君は科学館に来たかったの?」
「うん。行こう、マオちゃん」
入場料を払い、科学館の中に入ると、クーラーが効いた館内は親子連れが多かった。
シリウス君は私と手をつないでいる。昨日も思ったけど、その手は私よりちょっとだけ大きくてあったかい。
本当にいなくなっちゃうの?
聞きたいのに、何も言えない。
宇宙のコーナーを回って、電気の仕組みを見ていると、ユウト君が「そろそろ時間だって」と言った。
「なんの?」
私が聞くと、ケントが「プラネタリウム」と言って、私達は最上階にある、プラネタリウムに入っていった。
小学校に入る前に一度お母さんと来たことがあったけど、どんな感じだったのか、忘れていたから、椅子に座ると寝転んじゃいそうになって驚いてしまった。
「シリウス君、プラネタリウムに来たかったの?」
「うん」
「おい、もうすぐ始まるぞ」
ケントの声と共に、薄暗くなっていくと、お姉さんがプラネタリウム上映中の注意を説明していた。
シリウス君は私に顔を寄せて小さな声で「本当はね、本物の星を一緒に見たかったんだ。でもね、見れないから」と言って黙ってしまった。
見れない?
晴れた日だったら綺麗に星は見れるんじゃないかな。
ブーっという、音がなると、一気に暗くなって、私達の目の前に一面の星空が現れた。
「わあ。綺麗……」
小さく呟くと、シリウス君はぎゅっと手を握ってくれた。
ここにいるよって言っている感じがして、私もきゅっと握り返した。
『では、春の星座を紹介しましょう……』
天井に、春の星座が映し出されていった。そこで、聞いた事がある、言葉が耳に飛び込んできた。
『春の大三角形の星です。デネボラ、アークトゥルス、スピカ』
「スピカ?」
説明を聞きながら必死に星を追う。
では、次は夏の星座。
『わし座のアルタイル。彦星ともいわれる星です』
『こと座のベガ。織姫星と言われます』
「アルタイル……ベガ……」
小さく呟いて星を見る。
『秋の星座を見て見ましょう。唯一の一等星はフォーマルハウトと呼ばれる星です』
「フォーマルハウト……」
『冬の星座の前に、いつも輝く星、あれは北極星、ポラリスと呼ばれます』
「ポラリス」
もう、涙が溢れて来てしまった。
涙で星が良く見えない。
『冬の星座です』
シリウス君と手をつないで無い方の手で私は涙をぬぐった。
『恒星で一番明るい星。シリウス』
「一番……。シリウス……」
もう、一番明るいって言われても、何も見えない位に私は涙があふれた。
シリウス君は帰るの?自分の場所に。魔法書が何処にあるかなんて聞いてない。どんな魔法なのかも知らない。
でも、シリウス君がここに来たかったのは、私にこれを見せたかったから?
プラネタリウムの上映が終わっても私はすぐに立ち上がる事が出来なかった。
どんな話だったかも頭に入ってない。
覚えているのは、一緒に捕まえた魔法書の紙の名前と、シリウス君の暖かい手の感触だけだった。




