最後のやりたいこと 20
「あー。暑いー」
花火も終え、歯磨きとシャワーを交代で浴びると、テントに入って寝た。
隣のテントからユウト君がケントを叱る声が聞こえたり、シリウス君の笑い声が聞こえてきて、なんだかおかしくなって、ニヤニヤしていたら気づいたら寝ていた。
朝になると、暑くて目が覚めた。
「暑いー」
私がテントから起き出すと、シリウス君はもう起きてて、おばあちゃんの手伝いをしながら縁側にお茶とおにぎりを運んでくれていた。
「おはよう、マオちゃん」
「おはようシリウスくん、おばあちゃん」
挨拶をして、縁側から家に入って、トイレと洗面をすませると、ケントもユウト君も起きていた。
「あー。庭でのキャンプって、トイレとか近いの楽だな」
ユウトはそう言うと、おばあちゃんに挨拶をして、やっぱり縁側から家に入ってトイレに行った。
「キャンプってトイレ遠いの?」
ユウト君に聞くと、「まちまちかな」と言った。
キャンプ場でも、テント立てた場所によっては水場が凄く遠くなるんだ。わざと遠くにうちの父は張ったりするから。水場が近いと人が通るから嫌だっていってね。だから、夜中にトイレに行く時は懐中電灯が必要だったりする。
「へー。そうなんだ」
「僕は秋のキャンプが好きだけどね。マシュマロ焼いて食べたら美味しいよ」
「マシュマロ!!!」
「バナナをアルミホイルでくるんで焼いても美味しい」
「バナナ!!」
「おい、おにぎり食おうぜ」
私がおいしそうなキャンプのデザートにキラキラしていると、ケントがおにぎりと卵焼きを外のテーブルに置いた。
「あ、そうだね、いただきまーす」
昆布が入ったおにぎりや、梅干しが入ったおにぎりを食べていると、ケントが「はー」と溜息をついた。
「なによ、朝から溜息なんて」
「いや。夏休みもあと三日だなあってさ」
「もう、そんなこと言わないでよ」
「宿題、マジ頑張んないと」
「うん、それはケントだけね」
ケントは「はー」ともう一度溜息を吐きながらも、おにぎりを口いっぱいに頬張っていた。
「今日は何しようか」
シリウス君が私に向かって聞いた。
「うーんとね、そうだなあ。でも、やりたい事、全部しちゃったかな」
私がやりたい事リストを思い浮かべながらそう言うと、シリウス君が、ニコッと笑って、首を横に振った。
「マオちゃん、もう一つ、やりたい事があるよ?」
「え?なんだろう?」
「シャボン玉」
「あ!そうだった!」
屋上で話したこと。シリウス君は覚えてくれていたんだ。
「なんだよ、マオ、シャボン玉好きなのか?百均行って、買ってこようぜ」
「うん、じゃあ、今日はケントの宿題を終わらせるのと、キャンプの片付けと、シャボン玉をする事にしようか」
「げえ、にいちゃん、俺の宿題はいいよ」
「ケント、おおばあちゃんに言うよ?」
「……。分かったよ」
「げー」と言ってから、ケントはバケツの中の花火を片付け始め、ユウト君はテントをひっくり返した。
「すぐにたたむよりも、ちょっと裏側を干してたたむといいんだ」
「へー」
片付けを終えて、ユウト君はケントの宿題を見ていると言うので、私とシリウスで百均にシャボン玉を買いに行った。
「百均って楽しいんだよー」
「ひゃっきん?」
「うん。百円で買える……いや、買えないけど、百円位で、いや、百円じゃないのも結構あるけど、でも、楽しいの」
「うん。楽しいんだ」
「シャボン玉もあるし、文房具もお菓子もあってね。私は髪結ぶゴムとか、ノートとかも百均で買う」
「色々あるんだね」
「うん」
シリウス君と近所のスーパーの横にある、百均に行っておもちゃコーナーにあるシャボン玉を買った。
「夏休みの工作とかもあるー」
私が文房具の方も教えていると、紙粘土で作る貯金箱や、実験のキットなんかが売られていた。
「こういうのも楽しいんだよー。あ。ほら、これ、星座早見表、今年は使ってないけど、前、理科の宿題でしたんだよ」
「ふうん……」
シリウス君はじっと見ているだけで、何も言わなくなったから、レジに行ってシャボン玉を買うと、家に戻った。
家に戻ると、机につっぷしているケントと、おばあちゃんから貰ったのであろう、アイスを食べているユウト君がいた。
「おかえり」
「ただいま、ケント大丈夫?」
「……」
返事がない。ユウト君を見てケントを指さして「大丈夫?」と聞くと、「問題ないよ」と言われた。
「うん、普段使わない頭を使ったせいで疲れただけだよ。筋肉痛と一緒だよね」
「そっか。じゃあ、大丈夫かな」
「……お前ら、失礼だぞ」
そう言われたけど、ケントを無視して、私もアイスを貰いに行こうと、奥のキッチンに行くと、シリウス君もついてきた。
「シリウス君、バニラとチョコどっちがいい?」
「バニラ」
「ふふ。もう、シリウス君、バニラってなに?チョコってなに?って聞かないね」
「うん、両方食べたから」
「そうだねー」
私達が話していると、復活したケントがしゃぼん玉を勢いよく吹いていた。
「よし。宿題はもういい。シャボン玉だ。でかいの作るぞ」
皆で飛ばすシャボン玉は本当に綺麗だった。
沢山のシャボン玉が空に上っていく。
「綺麗だね、シリウス君」
「うん、マオちゃん。マオちゃんはキラキラしたりするものが好きなの?」
「うん、そうかも」
「そっか」
シャボン玉を大きく大きく作ろうとして失敗して笑っていると、ユウト君が大きなシャボン玉を作れた。
「凄い!大きいねえ!」
「ふっふっふ。こうやって、紐と棒で大きいのが作れるんだよ」
ユウト君がふわあっと棒を振ると大きなシャボン玉が飛んでいった。
その中に。
「あ!!!あった!!」
「え?」
「ユウト君、ごめん!!!」
私はそう言うと、ユウト君が作った大きなシャボン玉をジャンプして壊した。
「えい!」
ポンっとシャボン玉から飛び出した白い紙。あった。最後の一枚。
「シリウス君!!」
「うん、最後の一枚だ」
シリウス君が紙を自分の顔の前に向け、ゆっくりと息を吹きかけた。キラキラと紙から不思議な靄が飛び出していく。
『ポラリス』
シリウスが呟くと、その不思議な靄は綺麗な白色になって空に吸い込まれていった。
真っ白な紙には不思議な文字が前の紙と同じように浮かび上がっていた。手のひらを振って飲み込むように魔法の紙をシリウス君が消した。
その瞬間、シリウス君の身体が一瞬明るく光った。
「魔法書が完成したよ」
優しく、シリウス君が笑った。
「良かったね!」
「うん、有難う、マオちゃん、そしてケント君もユウトさんも」
「お、おう」
「うん」
私がニコニコしていると、シリウス君が私の手を握った。
「マオちゃん、本当に有難う」
「ううん。いいよ!私もすっごく楽しかったし!」
「うん、僕も。マオちゃんと出会えて良かった」
「へへへ」私はなんだか照れてしまって、変な声で笑ってしまった。良かった。シリウス君の手が温かい。本当の人間みたい。
「マオちゃん、僕、帰らなきゃ」
「うん?今日はもう帰るの?」
「ううん。魔法書が完成したからね。僕は本の中に帰らなきゃいけないんだ」
「え?」
私はこんなにびっくりした事が今迄なかった。ドキンって心臓が嫌な音を立てたのも分かった。
口がカラカラに乾いていく。
ドキン、ドキンって嫌な音を心臓はずっと鳴らしている。
「え?なんで?」
私がシリウス君を見つめていると、ユウト君が私達のすぐそばに立って、私の肩に手を置いた。
「マオちゃん、シリウスは本の精霊なんだよ」
「うん、だけど」
「シリウスは魔法書を完成させるために魔法書が遣わせた精霊なんだよ」
「で、でも」
「シリウスの力は魔法書のモノなんだ」
「シリウス君?」
私はぎゅっとシリウスの手を握った。こんなに温かいのに。もう、ぶよぶよじゃないのに。綺麗な目をしているし、肌だって、髪だって。
「な、なんでえ?」
もう、涙が盛り上がってきてしまった。
「ごめん、マオちゃん」
「シリウス君。帰るって、何処に?」
「僕の場所にだよ」
「すぐに帰っちゃうの?」
「ううん。明日のそうだな、夕方くらいかな。一番星が見える頃までは時間があるよ」
「そうなんだ……」
私はそう言ってから何も言えなくなってしまった。
シリウス君が帰っちゃう。分かってた。シリウス君は本の精霊だもん。だから人間じゃないって。でも、どんどん、力が強くなって、人間みたいになった。だから、シリウス君は精霊じゃなくなって人間になるんじゃないかって思っちゃったんだ。
いなくなるなんて。
会えなくなるなんて。
そんなの嫌だよ。
大好きなのに。
泣き疲れた私を、シリウス君はずっとそばで手を握ってくれていた。夕方になっても、陽が落ちるまで、ずっと傍にいてくれた。
だけど、「また明日ね、マオちゃん」と言って帰っていった、シリウス君の言葉に、私はまた泣いちゃったんだ。




