13 ケントからのごめん
「はっはっは、こっちだこっち」
「ええー。こっちってどっち?」
おじいちゃんが火起こしをして、肉が焼ける間にスイカ割りをしようという事になった。そして今、私は目隠しをされてグルグル回されて、棒を持った状態なのだ。
そう、スイカ割り真っ最中なのである。
「マオちゃん、もう少し右だよ」
「あ。シリウス坊主、教えたな」
「だって、教えてあげなきゃ」
「こ、こっちかな?」
私はシリウス君に言われた通りに少し向きを変えた。
「あ。いいよ。そのまま真っすぐ」
「本当?」
私はそう聞くと、棒を思い切り振り上げた。
「よし!いけ!」
「思い切りだ!」
勘蔵さんや、繁さんの掛け声に頷き、「えい!!!」と言って思い切り振り下ろした。
「ポコン」
「当たった!!」
目隠しを取ってスイカを見たが、ちょっとヒビが入っただけで、全然、割れていなかった。
「ええええ」
「はっはっは!!!狙いはよかったなあ!」
「意外と力がいるんだよねえ」
「シゲは上手いんじゃないか?剣道してたからな」
「まあ、振り下ろすのは。当たるかどうかは別物だろう?。それに、この棒は細いからな」
「太いのでやると、一発で終わるかもしれないだろう?細いのがいいんだよ」
おじいちゃんがビールを飲みながら説明をしていたけど、それならそうと最初に言って欲しかった。割れなくてがっかりしてしまったじゃないか。
「先にシリウス君にやらせなよ。綺麗に割れるかもしれないじゃないか」
「ああ、そうだな、シリウス坊主、やってみろよ」
私がシリウス君に棒を渡して目隠しをしてあげると、シリウス君はおじいちゃん達にクルクルと回された。
「さあいけ!」
「わわわ。見えないね」
「シリウス君、ちょっと左、左だよ」
「おい、マオ、いきなり教えるな」
「だって、何も分からないんじゃ無理だよ。手を叩いてみる?」
「よし、音は許そう」
私は手を叩いてシリウス君を応援した。スイカの方に回って、パンパンと手を叩くとシリウス君はトコトコと真っすぐに私の方へと歩いてきた。
「シリウス君!近すぎ!!」
「ごめん」
「シリウス坊主は凄いな。よし、右にそのまま振り下ろせ、思い切りだぞ」
「はい」
シリウス君はおじいちゃんに言われた通りに右に向き直ると、棒を思い切り振り下ろした。
「パン!!」
いい音と共に、スイカは綺麗に割れた。
「おお、やるなあ。ヒビの所に綺麗に入ったな」
「うん、綺麗に割れたな」
「まあまあだな」
おじいちゃん達のスイカ割り評論を聞いたけど、「無視していいのよ」と言う、おばあちゃんの声に頷いた。だって、良く分からなくなっちゃったし。
おばあちゃんが綺麗にスイカを切ってくれて、それを食べていると、肉の焼けるいい匂いがし出した。
「もう少ししたら肉も焼けるぞ」
「うん。美味しそう!」
「いただきます」
そう言ってシリウス君と一緒にスイカやお肉をもぐもぐしておると、おばあちゃんが「いらっしゃい」と言って、庭の方に誰か連れてきた。
「げ」
そう言いながら、私がスイカの種を飛ばすと、キュウリを持つケントがやってきた。
「ケント君の家からお野菜頂いたの。せっかくだから、ケント君も食べていったら?」
ちらっとケントは私とシリウスを見ると嫌そうな顔をした。「ねえ?」と言ったおばあちゃんに見えないように私に「べー」っと舌を出して、縁側に野菜を置いた。
なんなのよ。
私も「べー」っと舌を出すと、おばあちゃんに見つかってしまった。
「こら、マオ、そんな事しないの」
「え。ケントだってしてたもん」
そう言ってもケントは知らん顔してる。本当、むかつく。
「ケン坊、スイカ、食ってけよ」
おじいちゃんがそう言うと、ケントは急に大人しくなった。
「いただきます」
そう言って、おじいちゃん達の近くに座るとスイカを食べだした。
「ケントの所は今、忙しいだろう?」
おじいちゃんがそう言って、繁さんと勘蔵さんに「ケントは百合子さんの所の孫さんなんだ」と説明すると、皆が頷いた。
「ああ、百合子さんの」
「じゃあ、ナスもキュウリも百合子さんの所か」
「ああ、相変わらず、梅ババアが、ぴんぴんして畑に出てるよ。もう、ありゃ妖怪だな」
「失礼な事いうんじゃないわよ」
おばあちゃんがおじいちゃんを叩くと、ケントが笑った。
「おおばあちゃんは今は小屋で仕事してるよ。夏の間は父さんとじいちゃんが畑に出てるんだ。朝早くしか仕事しないけどね」
「ああ、暑いからな。昼間にやったら死ぬな。ああでも、梅ババアは大丈夫そうだけどな」
「へへへ。おおばあちゃんも気をつけているよ。熱中症で倒れたとかよく聞くからって」
「そうか、お前らも気をつけろよ」
私はシリウス君とスイカを食べ、ケントは私達をチラチラと見ていた。
それからさらにお肉を焼いて、サラダやおにぎりも食べてお腹一杯になって、おじいちゃん達は変わらずお酒を飲んで楽しく喋っていて、私達におばあちゃんがアイスを持って来てくれて、どのアイスを選ぶかでケントが隣にきた。
「おい、マオ、お前先に選んでいいぞ」
「なによ、ケント、いばりんぼ」
「な、なんだよ。せっかく言ってやってんのにさ」
ケントがふんっと怒りそうになると、シリウス君がケントをちょんちょんと触った。
「ケント君。僕、シリウス、宜しくね」
「お、おう。お前も先に選んでいいぞ」
「有難う。ケント君は優しいね。でも、ケント君はマオちゃんに他に言いたい事があるの?」
ケントはシリウスがそう言うと、びっくりした顔をした。そして一瞬むっとした顔をしたかと思ったら、急に、へにょんとした顔になった。
「マオ、この間、ごめんな」
「え?」
「ほら。お前、アイス、落としただろ」
「ああ、うん。ジェラートね」
「あ、ああ、それ。ごめん」
ケントが謝った!
私はびっくりして、シリウス君を見たら、シリウス君はニコニコしていた。
「うん、いいよ」
私がそう言うと、ケントはほっとした顔をして、「アイス、選べよ」とまるで自分のアイスかのように勧めたのでやっぱりケントはいばりんぼだな、と思ったけど、でも、なんだか、胸の中がスッキリした気持ちになった。
「何が美味しいのかな?」とシリウス君が迷っていると、「なんだよ。アイスも知らないのかよ」と言って、「バニラが好きなら、モナカもいいんじゃねえ?あ、でも、チョコ好きならこっちのコーンも美味いよな。俺は、このカップのヤツと、こっちのモナカが好きだな」と教えていた。
「じゃあ、僕はカップにしようかな。マオちゃんは?」
「え。私はじゃあ、コーン」
「よし、じゃあ、俺はモナカだな」
ケントは威張ってモナカを選んでいつの間にかシリウス君の隣にケントが座っていた。
「あらあら、シリウス君はモテモテね」
おばあちゃんは笑ってアイスを冷凍庫に入れにいっていたけど、私もちょっと頷きたかった。
シリウス君はモテそうな気がする。だって、ケントが笑って嬉しそうにシリウス君としゃべっているもの。
なんだか、シリウス君を取られたみたいな気持ちにもなるけど、でも、ケントも喧嘩しないでシリウス君と一緒にアイスを食べているのは嬉しい。
そうやって、アイスを食べて、ケントもおばあちゃんが連絡しておくから、と言って、一緒にバーベキューも食べてから帰った。
帰り際にシリウス君ももう帰る、というので、一緒に外に見送ると、ケントの肩にあの白い紙が乗っていた。
「あ」
「うん?」
「いや、ケント、ちょっとじっとして」
私がそう言って、そうっとケントに手を伸ばしすと、ケントはびっくりした顔をした。
「な、なんだよ」
「いいから、じっとしててね」
ケントに近づいて、肩に乗っている紙を捕まえた時にはケントはちょっと目を瞑っていた。
「もう、いいよ」
「な、なんだったんだよ」
「うん、ちょっと、この紙があったから」
「あ」
ケントはその紙を見ると、私とシリウス君を睨んだ。
「そうだ、お前ら、この間、なんか変なことしてたよな?なんだよ、あれ、教えろよ」
私は困った顔をしたけど、シリウス君は頷いて、少し先のバス停に三人で歩いて座った。




