5,なりきりが大事。
天啓のごとく。
ルクは考えかたが間違っていたのだと気づいた。
というよりも、取り組み方が。
被りものをかぶっただけでは、無口キャラにはなれない。ただのコミュ症の人だ。正しくは、被りものをしたコミュ症の、ちょっと痛い人。
やるべきことは、なりきること。無口キャラを極めること。
しかし無口キャラって、あれはいったい、どういう人たちだろう。なぜ無口なのか。恥ずかしがり屋だからではなく、おそらく他者と隔絶しているからだ。
さらにいえば、だいたいにおいて、冷酷無比(偏見)。
なりきるのだ、なりきるのだ。
ルクは攻撃力を上げてから、右拳をカウンターに振り下ろした。粉砕。
(………何しているのだろうか)
自分でもよく分からなかったが、なりきりを維持する。
恐怖の顔で、受付係が言う。
「あ、あの?」
なりきっていたら、自然と台詞が出てきた。
「遅い」
「も、申し訳ございません!」
無口キャラというのは、たいして話さなくても、相手側が意志をくみ取ってくれるのだ。なんてラクなのだろうか。
上機嫌になっていたので、少し調子にのっていたのかもしれない。
先ほどのバーンが、ギルド内に飛び込んできた。意識を取り戻したようだ。ルクの姿を認めるなり、「貴様あぁぁあ!」と戦闘槌を振りかざして、突撃してきた。
普段のルクならば、穏便に済ますところ。しかし、今は無口キャラモード(しかもルクの無口キャラには、かなりの偏見が入っていた)
「貴様ぁぁぁぁあ、さっきはよくもぉぉぉおお!!」
「邪魔だ」
無口キャラなら、やるだろう。冷酷にやるだろう。
というわけで、斬撃スキル《桜斬》。
桜色の斬撃が走り、バーンの腹部を切り裂く。
とたん裂け目から、臓物がこぼれ出てきた。
「……」「……」
ルクとバーン、しばし目をあわせる。
次の瞬間には、バーンが悲鳴をあげながら、自分の臓物を腹内に戻そうとしだした。
「ぎゃぁぁあああああぁぁ俺の、オレのハラワタがぁぁぁぁぁぁ」
周囲の冒険者たちは、顔を青ざめながら、後退していった。
二つの名持ちのバーンが、こうも呆気なく倒されるとは。やはり、この頭蓋を被った謎の冒険者は、ただ者ではないのだ。そして、冷酷無比。
当人であるルクは、固唾をのみながら、一考した。
やりすぎたのか? 普通ならば、やりすぎたのだ。
しかし無口キャラならば、やっていただろう。
正直なところ、ルクの脳はけっこうな勢いで、オーバーヒートしていた。こなるともう、何がなにやらわからない。やるべきことは、なりきりの維持だ。
悲鳴をあげるバーンは無視して、すっかり恐怖で固まっている受付係に、言った。
「換金はまだか?」
3分後には、素材群をすべて換金し、大金を手に入れていた。




