EX05 秘匿資料:優美香ノート抜粋
この作品と同じ世界で書かれている「終焉機ヴィクティム」の登場人物の手記という形式です。
未読の方はほーん。こんな奴が居たんだなくらいに思っておいてください。
興味を持たれたら是非一読を。
今日も晴れ。実も元気。
星が良く見える。
そしてクイーンのマザーユニットも。
ほぼ無傷で鹵獲できたクイーンのマザーユニットからは多くの物を得られた。
りさちーやるかるかのお陰でそのコントロールが可能となったのは本当に幸運な事だった。
こんなことを言うとまこっちは怒るだろうけど不幸中の幸い。
早く起きてこないかな。
あのマザーユニットをベースにしたマザーシップの開発と浮遊都市を回収した移民船の設計は順調。
問題は、宇宙に出た後。
正直これは想定外だった。
あれだけの犠牲を払って討伐したクイーンタイプが、この宇宙にはまだまだ沢山という言葉では表せない程多くいる。
それどころか、ASIDの系統図を辿って行けばその原点。オリジナルのクイーンにまで行きあたる事が分かった。
正直、頭が痛い。
現段階で分かっているのは、オリジナルクイーンは九体。
つまりは、九種類の系譜が存在するという事。
何れも現有戦力では倒す事なんて不可能。
いや、そもそもこれらのクイーンを本当に倒すことが出来るのかすら分からない。
ダーリンが居たとしても可能かどうか。
何れも常識外のリアクター出力と巨体。それに強大な群れを持っている。
その中でも比較的マシな個体。群れを持たず単独で行動するオリジナルクイーン。
マザーユニットからサルベージした情報をここに記録する。
何しろこんな物を見せられたら絶望して動きを止めかねない。
何より宇宙への移民策を中止させられるかもしれない。
それだけは避けないといけない。今しかない。
私の世代の内に宇宙へと旅立てないと、私たちはこの星と運命を共にすることになる。
ASIDに食い荒らされたこの惑星はもう限界だ。
推測だが――他の惑星はここまでにならないだろう。
殆どの惑星では大した抵抗も出来ず、生態系を蹂躙され、そしてASIDは次の惑星へと旅立つ。
皮肉にも私たちが六百年戦い、抗った事でこの惑星は荒れ果ててしまった。
話が逸れた。
正直この日記以外に書く場所が無い。
下手にデータに残して他の人に見られると困るし……かといって全く記録を残さずに死蔵させるには問題のある情報だ。
何時か、この日記帳が公開される日を望む。いや、やっぱちょっと困るな……。
その際は個人的な記載部は削除してもらえると助かる。
推定体長300キロメートル。
リアクターの出力は通常型の約1万倍。何か単位決めたいなこれ。
群れを一切持たず、マザーユニットは存在している様だが外部には露出していない。
クイーンとしては異端の群れを持たないASID。
だから厳密にはコイツはオリジナルクイーンじゃない。
その系譜が存在しない、はぐれとでも言うべき種だ。
ASIDという種が誕生した時から存在するのはデータ上からも分かるのだが、まるでこいつだけ完全に別の生き物だ。
いくつも世代を経て来たASIDらはその原種の性質は薄れている。
だからきっと私達にはほとんど区別が付けられないだろう。
有るとしたら、きっとオリジナルに近い子か孫辺りまで。
とは言えこの辺りは私の推論も混ざっている。
話をオリジナルクイーンに戻す。
このオリジナルクイーンを『スタルト』と私は名付けた。
いや、厳密にはそれがASID内での呼称と言うべきか。
少なくとも鹵獲したマザーユニットはそう認識していた。
他の八体のオリジナルクイーンにもそれぞれ別々の名前がある。
彼らに名前を付けるという文化があったとは思えないのだが……。
もしもあったとするのならば、ASIDにはそれなりの知性と文化があったという事になる。
今回遭遇したクイーンは確かに人語を介した。
ただそれはあくまで我々人類という種を六百年に渡り観察してきた結果だ。
所謂ASID語という物は、観測されていない。
実際、ダーリンの手を借りてASIDの指揮系統を解析しようとしたことがあるが、上手く行かなかった。
機械語翻訳のスペシャリストである彼がダメだというのだからまず、無いのだろうと結論付けたのだが早計だったかもしれない。
また話が逸れた。
スタルトの性能諸元に関しては全身にハリネズミの様に配置されたエーテルカノン。
そして頭部に位置する超大型のエーテルカノン。
エーテルハイメガカノンとも言えるが、まあその辺ははっきりと言ってしまえば出力規模の問題だ。
エーテルハイメガハイパーウルトラミラクルエクサパワフルハイパーカノンとか言い出されても困る。
兎に角全身が砲台の塊で、敵対生物を徹底的に叩き潰していくだろう。
それ以外には空間を圧縮して打ち出すような機構の存在が確認できる。
空間干渉兵器。恐らくはエーテルコーティングでは防ぎ切れないだろう。フィールドに至っては無視されると見てもいい。
コアユニットも複数存在する。
コアがASIDの本質だと考えると、それが複数あるというのはおかしな話だ。
恐らくは、その内の一つが本当のコアだと思うのだが……もしもそれぞれのコアが相互に補完し合う関係だとしたら。
オリジナルクイーンは自分の本質を分割しているという事になる。
言い換えると己のエーテルの源、魂さえも分割……または模倣出来るのだ。
自己の分散。
そんな事を是とする時点で生き物としては破綻している。
自己の保存が本能だとしたら、オリジナルのASIDはそれを度外視していることになる。何故そんな生き方を選んだのだろうか。
まああくまでこれは人間の考えなので深く考えても意味は無いのかもしれない。
単に、そう言う生き物であるという一言で片付いてしまう。
さておき、その構造は非常に強固だ。
理論上、このスタルトを討伐するには通常のASID通りリアクターを破壊する。
そして複数存在するコアを同時に破壊するの二つしかない。
どちらも困難極まるだろう。
特に高出力で運転中のリアクターはそれ以上のエーテルをぶつけないと突破できない。
つまり、理屈の上で人類に突破の方法は無いという事だ。現時点での最大出力はダーリンの2000倍。
制御不能なリミッターを解除した状態でさえギリギリ1万に届いたかどうかだろう。そこまで行くと観測不能なので分からない。
故に、今後の人類はリアクターの高出力化と、観測機器の上限拡大。そして、火器のエーテル運用効率の向上が挙げられる。
恐らくだが、1万倍何て言う出力は人類には実現できない。
リアクターのメカニズム解析はまだ始まったばかりだが、行けても3000が良い所だろう。
出来れば未来の人間がその予測を覆す事を願う。
出力で追いつけないならば、エーテルの圧縮と言った運用で誤魔化すしかない。
何より、少量のエーテルで上げられる戦果が増えるのならばそれは移民船全体の戦力の底上げになる。
まだ八体もこんなのが居るかと思うと頭が痛い。
当初計画していた移民プランは破棄して、複数の移民船――或いは移民船団による種の保存を優先する方が良いかもしれない。
少し疲れた。
続きはまた明日書くことにしよう。
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