01 メインシップ奪還作戦1
「空間振動を検知! 反応、ライブラリに該当データあり!」
「来たか……想像以上に動きが早いね」
第三船団シップ1。そこに設けられた第二船団の極秘ラボ内で感心したようにハロルドは言う。
超大型種『スタルト』との交戦直後に、第二船団本隊で襲撃を掛けたのだ。
相当に手痛いダメージを与えたはずだった。
加えて、オーバーライトでの逃走時にも妨害を行った。
試作品の域を出ない、オーバーライトジャマ―。
自分たちの逃走も阻害してしまう欠陥品だが、ああいう一方的な状況ならば十分に使える代物だ。
転移先がランダムとなってしまうため、追撃できたわけではないが、組織立った撤退は不可能な状況。
艦隊はバラバラの宙域に飛ばされたはずだった。
ボロボロで孤立した状況。
更に問題となるのは第三船団の位置を彼らは見失ったはずだった。
それぞれの船は分かりやすく位置情報を発信などしていない。
そんな事をしたら味方だけではなく、ASIDまで引き寄せるのだから。
故に船団の予測進路と艦隊の移動経路から相対的に互いの位置を計算し続けるしかない。
しかし、先の妨害で第三船団艦隊は己の移動経路を見失った。
必然、船団の位置も分からず帰還も叶わない。
第一船団と第四船団がこちらに気付いた時にはもう全てが終わっている……はずだった。
「いずれ他の船団が気付く。それまで自分たちが生き残る事だけ考えればいい……と思ってはくれなかったか」
ハロルドとしてはそう怠惰に過ごしてくれた方が良かった。
意に反しての行動の速さ。
これは、と口元に笑みを浮かべた。
「気付いたかな。ライテラ計画の真相に」
タイムリープ。
過去へ情報を送る事による世界改変。
一度でもライテラが動いてしまえば、もう止められない。
それに気づいたのだとしたらこの性急さも納得がいく。
「シャーリーかな……? だとしたらあの子も生きているという事になるけど」
もうこの時間軸での命に拘りはない。
何れ全ては別の過去で上書きされていくのだ。
「照合! ロンバルディア級戦艦1! ロザリオ級巡洋艦2! 何れも船籍は第三船団所属艦です!」
「来たね。さてさて」
実際に戦いとなればハロルドにする事は無い。
オブザーバーという立場で艦隊に入り込んではいるし、彼にも部隊を指揮するくらいの才覚はあるのだが。
ここまで共に戦ってきた同志達と、真相を知らぬ――第三船団が先制攻撃を仕掛けようとしたと思っている――第二船団の兵士たちに頑張ってもらうつもりだった。
この場ではやる事の無いハロルドは楽し気に微笑みながら後ろを振り返る。
「そっちの準備はどうかな?」
「順調」
短く、ハロルドの様に楽し気な気配など欠片も漂わせない少女はそう呟いた。
「貴方の作ったライテラはまだまだ調整中。でもそれは時間が解決してくれる」
沈んだ瞳で、澪はそう淡々と告げる。
沈鬱な面持ちには常の能天気さは欠片も見られない。
「結構結構。まあたったの三隻だ。こちらの負けは有り得ないよ。ライテラは成される」
「……そうね。私もそれを望んでる」
どこまでも対照的な二人の声。
澪は今も悩む。
本当にこれで良かったのかと。
「どのくらいかかるの?」
「まあ少なく見積もっても後一月。長くても二月と言ったところか」
「結構かかるのね」
「何しろ物が巨大だ。ハードウェアの製造だけで相当の時間がかかるよ」
だけど他に償う方法が無い。
無いのだ。
◆ ◆ ◆
「オーバーライト終了!」
三隻の軍艦が、第三船団付近の宙域に姿を現す。
彼らにとって幸運だったのは、一隻の漂流した宙域が過去に観測済みのエリアだった事だ。
そこから複雑な計算を経て現在位置から第三船団の位置を割り出した。
同時に、周囲への呼びかけは続けていたのだが遂に集まったのはこれだけ。
まさか他が全滅したとは考えにくい。
となると、ロンバルディア級戦艦の通信機能でも届かない位離れた宙域にオーバーライトしてしまったという事だろう。
そして他の残存艦は、拙速に動くことを選ばなかった。或いはもっと単純に現在位置を喪失して動くに動けないのかもしれない。
この臨時艦隊とて仁の突拍子もない仮説が無ければ座してその時を待つだけだっただろう。
「っ! 第二船団の艦隊が展開しています!」
「だが数は半数程度か。まあだろうな。第二船団本体にも防衛戦力を割かねばならん。こちらに全軍を傾ける事は出来んだろう」
同時にそれはハロルドが第二船団防衛軍の全権を把握しているわけではない事の証左だ。
あくまで、ライテラ計画について知っているのは第二船団の一部。
他は第三船団が開戦準備をしていたという情報を信じてここにいるという事までは知らなかったが、これは朗報だ。
「本作戦を改めて説明する。今回の作戦は敵防衛線を突破し、メインシップへ侵入。未だこの宇宙で放浪中の友軍へ通信を行う事にある」
相手の戦力は半減した。
だが、それでも圧倒的に足りない。
約7倍の戦力差。
まともに戦って勝ち目はない。
ならばその差を埋めるしかない。
そしてそれを埋められるのは、今も散り散りになっている艦隊だ。
「緊急時用のビーコンの発信。並びに第一第四船団への救援要請。それらを行う事が本作戦の目的だ」
実際問題、この場に第三船団の艦隊が集結すれば消耗しているのを加味しても戦力は逆転するだろう。
つまり求められるのは速攻。
敵艦隊の中央を突破し、通信を取り戻す。
逆に言えばそれが出来なければ全滅する。
これはそういう類の作戦だ。
「……船団に残留した艦隊との連絡は取れんか?」
「ダメです……軍用回線は完全に妨害されています」
超大型種討伐艦隊と比べるとささやかな物だが、防衛用に残された艦隊がある。
それと連携し、挟み撃ちが出来れば戦局が楽になるのだが、相手もそれは読んでいるのだろう。
通信はきっちり妨害されていた。
ギリギリまで近づければ妨害があっても届くかもしれないが、そこまで辿り着くのもまた至難。
「全速前進! アサルトフレーム部隊発艦用意!」
艦橋での声に、仁も応える。
「全機発進準備だ! 機体の最終調整忘れるな!」
61機のレイヴン。
共食い整備でやっとこ確保した機体達だが、今回も相手が悪い。
同等以上の数で勝る相手。
真っ当な戦い方では一瞬で磨り潰される。
だから真っ当ではない戦い方をするしかない。
「作戦通りに行くぞ。良いな?」
「しかし大尉……! やはり無謀だ。せめて選抜した小隊だけでも――」
「悪いが……ハッキリ言って足手まといだ。居ない方が良い」
ぴしゃりと議論を打ち切る。
仁が選んだ作戦は――何時かと同じ。
仁が一人突出し、他の面々がそれを援護するワントップ体制。
だがそれが有効に働いていたのは相手が格下のASIDだったからだ。
機体性能は同格かそれ以上の相手に同じ戦術を取ってうまく機能するかは分からない。
だが他に数で勝る相手に生き残る術が思いつかなかった。
「大丈夫だ。レオパードであの人型相手にした時も楽勝だった。人型に比べればサイボーグ戦隊だって大したことないさ」
そう強がってみせると相手も納得したわけではないだろうが引き下がった。
それで良いと仁は思う。
この戦いは――言ってしまえば仁の私心から始まった物だ。
巻き込んでしまったようなものである彼らをせめて守らなくてはという思いが仁の中にもあった。
それに彼らに言ったことも嘘ではない。
仁に着いてこれるようなパイロットはここにはいない。
(笹森少尉が居ればな……)
超大型種の内部で久しぶりに動きを見たが随分と腕を上げていた。
あれならば仁の動きにも不足なく着いてこられる。
コウがいるだけで、どれだけ心強い事か。
教官時代に見たエースの資質。それは間違いなかった。
その才能の開花に僅かでも貢献できたのならば、教官冥利に尽きるという物だ。
だが無い物ねだりをしても仕方ない。
今ある手札で突破しなければ行けなかった。
「アサルトフレーム部隊、全機発艦開始せよ。繰り返す――」
「さあ、行くぞ。発艦開始! 敵アサルトフレーム部隊を撃破し、敵艦隊に穴を空ける!」
仁のレイヴンが一歩踏み出す。
失われた手足も頭部も予備パーツを取り付けた。
しかしながら前回の様にオービットパッケージやらの部品は取り付けられていない。
特殊な兵装であるファランクスパッケージもここには無かったため、ノーマルのアストラルパッケージだけだ。
本来ならオーバーホールが必要な機体だが、どうにかハードウェアは仕上がっていた。
唯一、背部の円盤。エーテルリアクターのリロードシステムだけは無傷だったため、そのまま残されている。
ただこちらもリアクターについては予備が殆どないため、埋まっているスロットは2つ。
そして仁にとって一番痛いのはシャーリーが調整した機体では無いという事だ。
担当した整備士が半泣きになりながら仁の細かい注文にこたえようとしていたが、遂に仁が求めた水準には達しなかった。
その整備士が悪いのではない。コンマミリ単位の感覚誤差をきっちり合わせてくるシャーリーが異常なだけなのだ。
そのせいで今一違和感が拭いきれない。その微かな違いはきっと極限状態になれば響いてくるであろう予感があった。
万全には程遠い。
だがそんなのは何時もの事だ。
いつもいつも完璧な状態で戦えるわけではない。
ロンバルディア級戦艦のカタパルトから仁のレイヴンが打ち出される。
この加速を後何回、仁は感じることが出来るのか。
ふと、そんな考えが彼の頭を過った。
感想ブクマ評価ありがとうございました。




