99 はく奪されたライセンス
=残念ですが‥‥リシャン‥‥あなたのエージェント権限を一時、はく奪します=
「‥‥‥‥」
=でも、そんな事はしたくはありません。この会話はオフレコです。今ならまだ大丈夫です。すぐにここから撤収しましょう=
「‥‥‥‥」
リシャンは動かない。只、真顔でクロウをじっと見つめる。
=本気なのですね=
「‥‥本気じゃない時なんてないけど?」
=‥‥‥‥分かりました=
クロウの瞳が紅い光を放つ。
「!」
全身から力が抜けて、リシャンは片膝をついた。
=これで、あなたはただのアバターと同程度になりました。これまで仮想世界で発揮してきた能力のほとんどが使用不可能です。切られれば痛みはあるし、酷ければ命を落とします=
「‥‥‥‥へえ」
リシャンは笑って立ち上がった。
「だから何?」
=彼らに介入する力はもう、なくなったという事です=
「そんな事ぐらいでね‥‥やめると思ってるの? この私が?」
フフ‥‥といつもの不遜な笑みを浮かべる。
「そんなもの無くて上等! この世界の人はね! 特別な力がなくても生きていく! 立ち向かってる! 私も同じ!」
=‥‥‥‥あなたと言う人はどうして‥‥=
クロウはしばらく黙っていた。カラスのアバターの向こう‥‥マイク越しに話している彼‥‥もしくは彼女は、今、何を考えているのか‥‥リシャンには分からない。
=何をどう思っても、今のあなたには何もできません。管理局への報告はしばらく保留にしておきます。しばらく頭を冷やせば、無慮さが分かると思います=
そんな捨て台詞を残して飛び立っていった。
「‥‥ありがとう‥‥‥‥」
本気で指令無視を咎めるつもりなら、リアル世界にある本来の身体と、今のアバターとのリンクを切ればそれで済む。敢えてそれをしなかったのは、本気でリシャンの造反を管理局に知らせたくないと考えていたからに違いない。それでも、時間が経てば局も気が付く。そうなる前に思い直してくれれば‥‥というのが、クロウの思惑のようだ。
「残念だけどね‥‥」
リシャンは地面を踏みしめる。体が重い気がするが、それは気のせいだけでもないようだ。
とにかく戦闘を避ける方法を探そう‥‥何か‥‥何かあるはずだ‥‥‥それだけを頭の中で模索しながら、湾岸連合の本部に戻る。




