100 決意の奔走
中では誰もが慌ただしく走り回っている。何か起こったようだ。
アジェトがいたので、彼の挙動が一段落した所を見計らい、近くに寄って理由を聞いてみた。
「政府軍の艦隊が接近してると報告があった。今回は王も来てるらしい」
「‥‥‥‥」
既に部隊は向かってきている。このような臨戦態勢の状態で両者の戦闘を中止にする方法があるとも思えない。
「結局‥‥私は‥‥」
クロウにあんな事を言っておきながら、何も出来ずにいる。
「それでは我々はこれで」
エージェント権限がない、ただの少女である事を知らない彼らは、それぞれが武器を携えてトラックなどの車両に乗り込んでいく。
「では‥‥姉さん‥‥お元気で‥‥」
「‥‥‥‥」
キアンが手を伸ばしてきたので、リシャンは無言でその手を掴んた。
慌ただしかったまわりは静まり返っていく。
彼らの大部分はもうここに戻ってくることはない。
それなのになぜ、ああも自然に向かって行けるのだろうか。
命を粗末にしすぎる。バジラフ王の言う通りにすれば、無駄にする事もなかった。
「‥‥‥‥」
雲と言う存在を忘れるかのように空がどこを向いても蒼く、白い煉瓦作りの家々はその光と調和していて、見ていると心が震えてくる。
「‥‥ふん」
空と大地‥‥どっちが良いとか、悪いとか‥‥そういう事ではなかった。その事に、たった今、気が付いた。
自分の心の中に信じ続け、持ち続けるもの‥‥矜持。それは正しいかどうかではなく、何を信じて生きていくか選んだもの‥‥ただそれだけの事。
アジェトは命より大事なものがあった。
バジラフは命が何より大事だった。
その天秤はどちらに傾くのか‥‥それは結果でしかない。
「‥‥‥‥」
そこまで考えたリシャンは立ち止まって自分の胸に手を当てる。
自分はどうしたいのか?
「‥‥‥それだけでいいじゃない」
今まで出会ってきた人達はどうだった?
皆、命を糧に目的に向かっていってた。命が惜しくて何もしなかった人はいない。
命は何か、事を成す為にあると。何もせずにただ生きてるだけなら、それは死んでいるのと同じなのだ。
「私もそう思う!」
リシャンは手を握りしめる。
踵を返して兵舎まで走っていく。リシャンはありとあらゆる武器の使い方を教育プログラムによってマスターしている。迷う事なく中の武器庫から残っているライフル銃を取り出し、カートリッジに弾を込める
「グダグダ考え込んで馬っ鹿じゃないの?」
歪みが発生しないように、なるべく犠牲を少なく停戦させる。それには政府軍の猛攻を切り抜け、バジラフの所にたどり着かなければならない。
たどり着いて、認めさせる。
状況が悪くても、命より為しえたいものがあったから、こうしてあなたに勝てたのだと。
そんな人達を守るなんて事はしなくていいのだと。
リシャンは政府軍が接近している港へと向かった。




