95 港の朝と銃の影
「お早うございます! リシャンの姉貴!」
「‥‥‥‥」
同じ緑の軍服を着た大男が、リシャンの近くまで走ってきて手を上げて敬礼する。
彼の名前はキアン。リシャンが最初にここで大立ち回りをした時に、片手でねじ伏せた男だ。見かけは相当年配に見えるが、頭をボーズにして口ひげを生やしているので、実はかなり若い。リシャンがここに来てから彼は、そんなふうに呼んでくる。
「何なのあなた?‥‥別にあなたの上官でも何でもないんだけど」
「いえ! 自分を指先で吹き飛ばしたあの力! そして政府軍のやつらを次々と打ち破っていく、その雄姿‥‥自分は感服しております!」
「‥‥‥‥」
ため息をついて、手の平で、サッサっと‥‥向こうに行ってくれという合図をする。
「では、失礼致します!」
敬礼してから両腕を脇腹につけてクルリと回転してからランニングのように走っていく。
=随分と慕われているようですね=
「‥‥迷惑。いちいち付きまとってくるから動きにくい」
リシャンはフン‥‥と鼻を鳴らす。
この数日で、随分と話しかけてくる人間が増えた。アジェトに何かを言われているのかもしれないが、彼らは笑いながら、時には震える手で握手を求めてくる。
「‥‥‥‥私に取り入ったって、加担するわけじゃないのに、全く、もの好きね」
魚の絵が描いてある大きなコンテナの前に立ち、開けずに中を見る。
金属製の物体を満載している。銃火器や、戦闘で使う部品な数々が入っている。とう遠くないうちにこれらは使用される。だが、このような武器では政府軍の使用するものには対抗できないのは明らかだ。
『では‥‥またね‥‥』
そう言っていたシャオティンの事も気になる。
彼女はザフラカン‥‥バジラフの中にいる。
「エージェント、リシャン!」
アジェトが手を振りながら近づいてきた。やはり彼も笑顔だ。
「傷の具合はもういいの?」
「ああ、こんなもの!」
アジェトは前回の戦闘で痛めた腕をさする。
「‥‥‥‥」
リシャンは何かを言おうとして開けた口を閉じた。
「‥‥‥ん どうかしたか?」
「‥‥‥‥」
聞かれて仕方なく、飲み込んでいた言葉を復活させる。
「バジラフがここを併合しようとする目的は、別に占領した後に略奪とかしたいからじゃない。他国の侵攻から守る為‥‥」
「だから我々が受けてきた事を全て忘れろと? 馬鹿な話はやめてくれ!」
アジェトは大声で返す。荷を肩に勝つんで運んでいた人が一瞬だけ振り向いた。
「ここは我々の地だ。もちろん俺はリアルからの移住者には違いないが、それでもここは俺の故郷だ。‥‥妻と子の眠るかけがえのない場所なんだ。守ってやるから明け渡せなど、受け入れられるわけがない」
「‥‥‥‥」
アジェトの言い分はリシャンにも分かっている。彼らにどう言おうが、考えを改める事はないだろうという事も。
その結果、多くの命が失われる事も。
それでも。
「‥‥‥全く」
つまりは、話してもどうにもならないという事を、リシャンも知っている。分かった上で、また話している自分がもどかしくなった。




