93 裏切りの誘い
「‥‥‥聞きたい事があるんだけど‥‥‥」
「なんだい?」
「軍が使った武器は何処から持ってきたの?」
「武器?‥‥ああ、あれか‥‥あれは‥‥」
バジラフは頭をかいた。
「あれは、うちの宰相が設計したものだ。威力が高いので重宝してるよ。それ以上は言えない」
「‥‥そう」
今はそれだけ聞き出した事で良しとしよう。リシャンはそう決断してバジラフに頭を下げた。
「では、さようなら、王様。良い人生の旅を」
「君もね」
「ふふ」
リシャンは王の執務室から出た。衛兵が立ったままだったが、時間が経てば元に戻る。
一度、外に出てクロウと合流して情報の整理をしようかと考えながら、薄暗い廊下を歩いていたが、
「‥‥‥‥!」
向こうから黒いガウンと黒い髪の一人の女性が歩いてくる。男性ばかりの軍の施設の中で、女性は珍しいが、目を引いたのはその点だけではない。
「‥‥‥‥」
彼女は微笑みを浮かべたまま、近づいてくる。リシャンも何事もなく、ただ無表情のまま足を進めた。
進行方向が真逆の二人は、一瞬だけ並んだ。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
無言の時間はほんの一瞬だった。
「‥‥リシャン、また会ったわね」
「‥‥‥‥」
あまりにも普通に話しかけられ、逆にリシャンは返す言葉を無くした。
「‥‥あなたは知る事になるわ‥‥管理局の‥‥統合政府のしている事を‥‥この世界がなぜあるのかを‥‥」
「‥‥‥‥」
彼女は攻撃してくるつもりはないようだ。ただ目を合わせずに正面を向いたまま、優しく話し続けている。リシャンにしても、ここで騒ぎを起こす事は得策ではない事を承知している。奇しくもその二人の思惑が重なり、ただすれ違う見知らぬ人という形になった。
女性‥‥シャオティンはリシャンのように笑った。
「では‥‥またね‥‥」
「‥‥‥‥」
シャオティンのその言葉が合図だったかのように、二人はまた歩きだす。
出入り口を守る兵士は、外に出る軍服姿の少女の姿を見ても、何も言わずに通した。先ほどのアームレスリングを見ていたのか、何処かリシャンを見る目も心なしか穏やかだ。
皮のブーツが踏みしめるのは熱い砂。
近くこの砂漠の地で大規模な戦闘が起こるのは避けられない。
=‥‥リシャン!=
雲一つない水色の空の向こうから、黒い染みのような鳥が羽ばたいてきた。
「クロウ‥‥何だかひさしぶりね」
=そんなに経ってませんが?‥‥どうしたんですか?=
「‥‥別に」
つい数分前に会ったシャオティンの事を話した。
=やはり彼女が裏で暗躍してたんですね。あの武器をこの地の人間に与えたのも彼女だったと=
「そうみたいね」
=管理局に報告しておきます=
「‥‥‥‥」
だが今までの事を全てシャオティンの仕業とするには腑に落ちなかった。
シャオティンがその気なら、この地に集まった兵士を彼女一人で殲滅出来るはず。そうして歪みを発生させればいい。
それがこんな面倒な事を仕組んだのはなぜなのか。
=疲れましたか?=
「そんなわけ‥‥」
言いかけてため息をつく。
シャオティンと会ったのはこれで二度目だ。前回も今回も、彼女の良いように振り回されている。しかも、それに対して、何も出来ずに終わっている。
つまりは役者が違うという事なのだ。以前に、リシャンはシャオティンの事を先輩と言ったが、年月の差からくる経験の差のようなものは確かにあるようだ。
「私の‥‥負けか‥‥」
だが、それ以上は何もさせない。この地がこんなふうになってしまった事に、彼女が関係しているのだとすれば、これ以上、好きにさせる事はできない。
そう考えているリシャンの瞳が光る。
「そうね、ちょっと疲れたかもね」
リシャンは緑色の軍服の胸元のチャックを下ろした。
「こんなゴワゴワして、色が単色で、何の優雅さもない服をずっと着てるのが、疲れてきた」
=あいかわらずですね=
「ふふん」
いらいらに任せて胸元に差してあった薬莢を空へと投げつける。
強い日差しを受けて落下しながらキラキラと輝くその様は、宝石の様にも見えた。




