90 仮面の志願兵
ザフラカン軍本部前では、人々が列をなして待っている。
国として良く思われているわけではなかったが、兵士へ支払われる賃金が基準より多く、結果、募兵の度に多くの人が殺到するようになっていた。
「次だ!」
長身の青年が中へと入っていく。その次に待っているのは、粗末な迷彩服を着た小柄で華奢な若者だった。体格から言って、とても採用されるとは思えない。
「次!」
その青年が奥へと進む。部屋の中には簡素なテーブルが一つと、深緑色の軍服を着た複数の男達が、座ったまま、その青年を凝視する。
「何だ、今度のは、やけに痩せっぽちだな。誰だ? こんなのをここによこしたのは?」
「そうだな。これではとても‥‥」
雇われない‥‥その言葉が出る前に、若者は口を開いた。
「おや、勇敢なるザフラカン軍は、人を見かけで判断するの?」
声は男性にしては甲高い。
「何?」
「‥‥‥‥」
青年は目深に被った帽子を上げて顔を上げる。その青年はリシャンだった。
「それはどういう意味だね?」
「意味も何も、言った通り。見かけだけで判断してるようじゃ、ザフラカンも大した事がないって事」
「な‥‥無礼な!」
リシャンの思惑通りに男性は頭に血が上っている。
「では、力比べをしますか?」
腕まくりして肘をテーブルにつける。真っ白で細い腕は、とてもまともにアームレスリングが出来るようには見えない。
「はっはっは! 何だそれは!」
右側に座っていたまだ若い将校が、リシャンの対面に座って手を掴んだ。
「‥‥‥‥」
大きな手が、リシャンの手を包み込む。
「用意はいいな」
「‥‥‥‥」
リシャンが頷くと、開始の号令とともに男は力を入れた。
「ふん!」
「‥‥‥‥」
周囲の予想通り、リシャンが押されている。あと三センチ‥ 華奢な手が机に押しつぶされそうになった頃。
「‥‥‥‥それで終わり?」
「‥‥?」
いくら押してもそれ以上はびくとも動かなくなった。それどころか、逆に押し返されている。
「‥‥‥‥ぬ‥‥ぐ‥‥」
「‥‥‥‥」
苦しそうな男とは対照的に、リシャンは眉一つ動かしていない。やがて拳は頂点を超えて、反対側へと倒れていった。
「ぐはっ!」
「‥‥‥‥」
あと少しで男の手の甲がつきそうになった直前、一気に力を入れられて、その手が机の天板に食い込む。
「があああ!」
腕を押さえて後ろにひっくりかえった。
「誰かまだやりますか?」
誰も答える者がいない。リシャンはそのまま兵士として採用となり、兵舎へと連れて行かれた




