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88 沈黙の街で

 日が暮れ始めると、今まで暑かった大地は一転、肌寒い程に気温が下がる。

 リシャンは無言で、漆喰作りの白壁の街を歩いて行く。これからの方針を決める必要があった。

 後には一匹のカラスがあとに続く。

 =あきらかにあれはオーバーテクノロジーでした=

「‥‥管理局は何か言ってた?」

 そのカラスはクロウが周囲に気取られないように、カラスの形態となったものだ。

 =今、協議中です。もう少ししたら方針が伝えられると思います。それまでは時間を潰すしかないでしょう=

「‥‥‥‥」

 クロウに心配されているようで、リシャンはため息をつく。

 =とは言っても、彼らの側について政府軍と戦う事は許可はされないでしょうね=

「聞いてみたの?」

 =いえいえ、あくまで私の私見です。余計な事はしないで任務で指示された事だけをしてください。それ以外の事をしてもロクな事になりませんから=

「‥‥‥‥今日はやけに喋るのね」

 道端に大きな岩があり、リシャンはそこに腰を下ろした。

 暗くなり始めた道の上を、荷馬車が速足で通り過ぎていく。御者台に座っているのは親子のようだ。暗がりで座り込んでいるリシャンを不審な目で見ていた。

 時間を潰す‥‥リシャンにとって最も苦手な事の一つだ。

 =お喋りついでに‥‥‥‥私がアクセス担当になった始めてのエージェントは、もっと素直な子でした。任務に忠実で、何度も仮想世界の危機を救いました=

「まるで私はそうではないと言いたげね」

 =‥‥まあ、似てはいませんでしたね=

 クロウが自分の事を話す事はほとんどない。その貴重な機会を無くさないように、リシャンはなるべく話の腰を折らないようにとは考えた。

 =彼女は管理局の命を忠実に実行していたのですが、ある日、AIアバターの願いを叶えようと、指示とは反する行動を取ってしまいました。最初から無謀と分かっていたのに行動して‥‥予想した通り、彼女は死亡しました=

「‥‥‥‥‥‥」

 =あの時、もっと強く止めていたらと、今でも後悔しています。‥‥だからリシャン、軽率な行動は慎んでください。あなたは彼女以上に無茶な事をするようなので=

「‥‥‥‥‥‥」

 リシャンは岩から飛び降りる。

 真っ暗になった辺りには誰も歩いている人はいない。家々の窓から明かりが漏れており、帰る場所に帰っていったのだ。

「‥‥まあ、少しはね」

 フフ‥‥と笑ったのは、クロウのお喋りに対してなのか、普通の人は夜に家に帰るという当たり前の事を考えたからか、それとも、素直にクロウの言葉に頷いたからなのか‥‥その事が、自分でも分からず、笑っていた。

 =リシャン‥‥たった今、ザフラカン政府に潜入して詳細を調査せよという指示がありました=

「潜入? 方法は?」

 =柔軟かつ効率的に対応してほしいと=

「‥‥‥‥」

 一際大きなため息をつく。

「これで指示された通りにやれって? 馬鹿じゃないの?」

 =‥‥‥はあ、まあ‥‥それは‥‥=

「‥‥ふふ‥‥あは!」

 言葉を失っているクロウを、リシャンは大声で笑った。


 

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