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85 約束の港にて

「聞きたい事があるんだけど、アジェト、アルダムはここにいる?」

「ああ?」

 男は真上からリシャンを睨む。かなりの身長差、体格差があり、並ぶと大人と子供のようだ。

「こんな所にアジア人か? 嬢ちゃん、あんた何者だ?」

「アジェトはいるの?」

 リシャンは同じ質問を繰り返す。

「‥‥‥‥そんな人はいねえよ」

 男はそのまま行こうとしたが、リシャンは男の空いてる腕を後ろから掴んだ。

「いねえって言ってるだろう!」

「ここで待ち合わせをする約束なのよ。嘘は言わないでよね」

「何だと!」

 男はリシャンの手を振りほどこうと力を込めたが、地面に深々と刺さっている鉄の杭のように、いくら揺さぶってもびくともしない。

「何だ‥‥一体‥‥痛てててて!」

 リシャンは片手で男の腕を捻る。関節を逆に回された男はたまらずに箱を放り出して地面に顔をすりつけた。

 それまで黙って見ていた周りの男達が、一斉に隠していた武器を抜いて銃口を向けてきた。

「ああもう‥‥何であなたは‥‥」

「ちゃんと話し合いはしようとしたでしょ? 応じないこいつらが悪い」

 一番手前にいた男がナイフを抜き、リシャンに走ろうとしたその時、

 “待て!”

 よく通る制止の声が響き、全員が動きを止めた。

「彼女は私の知り合いだ! 持ち場に戻れ!」

 その声だけで、その場の人間は、何事もなかったかのように作業を再開する。関節を痛めた大男だけは、腕を押さえて走っていった。

「‥‥‥あなたが、仮想空間管理局のエージェントですか?」

 そう聞いた男はまだ若く、ヒゲもまばらだ。背もリシャンより少し高いぐらいで、ここの男達に比べると華奢な印象を受けてしまう。

「私はリシャン。あなたがアジェトね」

 かなり年下に見えるリシャンの口ぶりが、まるで年長者のような感じに思えた。アジェトは少し驚いた顔になる。

「そうだ。ここで対政府組織アジルクの長をしてる。込み入った話もあるので、中で話しをしよう、エージェント、リシャン」

 リシャンが頷くと、アジェトは泊めてある船へと案内した。途中、船と桟橋の間にかけてある木の板が揺れたが、リシャンは軽快に甲板へと降り立った。

 通されたのは船の客室。アジェトは座るように椅子を手で示したが、リシャンは立ったままでいた。

「最初に確認したい事があるんだけど、この世界に接続する際に、あなたは普通の家庭を希望して、その通りの初期設定だった。それがどうして、こんな革命のような事をするようになったのかしら?」

「それは‥‥」

 アジェトは視線を逸らした。

「この世界に来て、幸せな生活を送れたのは、一年‥‥二年ぐらいだ。元々、この辺は海運で成り立っていたんだが、突然、隣国のザフラカンが侵攻してきた。その時の砲撃が元で‥‥妻も二人の子供も‥‥逝ってしまった」

「‥‥‥なるほど‥」

 アジェトはリアルでは病気で家族を失い、仮想世界では銃火器で亡くした。なぜ自分だけがこんな目に‥‥と普通なら嘆いて終わっても仕方がない程の不運だ。

 どんな状況になろうが、管理局は不干渉の立場は崩さない。逆恨みされても仕方がないまでもある。

「‥‥ふふ」

 アジェトが政府軍?‥‥に、立ち向かう理由は分かった。

「それで、規約違反‥‥」

「リシャン!」

「‥‥‥‥」

 窓から外を見る、海の方から何隻かの船が近づいてきている。

「アジェト!」

 部屋に銃を持った人が慌てて入ってくる。


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