83 人生は一瞬の花火のようなもの
夕暮れが過ぎる時刻になっても、夏の夜はまだ何となく明るい。川岸まで来た所で、リシャンは近くのベンチに腰を下ろして夕闇の中の星空を見上げた。
「‥‥‥‥」
ただ黙って星を見る。目を閉じてセミの鳴き声を聞いていると、フウリュウというものが分かったような‥‥そんな気がしたリシャンは、ベンチの後ろに手をかけて、体を大きくのけ反らす。その仕草は先ほどの愛想の無い猫のようだ。
「‥‥‥‥ん?」
流れ星を見つける。この時代ではあの流れ星が消える間に三回願いを言う事が出来たら、それは叶うという言い伝え?‥‥のようなものがある事を思い出す。
それはちょっと意味が違うだろう‥‥と、リシャンは思った。
三回言えたら願いが叶うのではない。流れ星が現れている間の刹那の時間ですら、想いを忘れない人が願いを叶えられるのではないだろうかと。
そこまで強く思い続けなければならない願いとは何なのだろうか‥‥。
「‥‥フフ‥‥」
リシャンの瞳の中に一つの流れ星が映り、流れていった。
その時、遠くで大きな爆発音が響き、空に大きな火花が散った。
=あれは花火というものです。あの光を見る事が目的で、他に意味はないようです=
「‥‥意味ね」
朝には散々、言っていた単語だが、今は何となくその言葉の意味が違って感じている。
河川敷の方から。次々と立体的な光が弾ける
「あの光も全部、仮想現実の中の話」
=それらは全部偽物だと思いますか?=
珍しくクロウが話に乗ってくる。
「‥‥確かに一瞬で花火は消えていくけどね」
リシャンはさっきの猫を探す少女の事を思いだす。そう言えば、今着ている白のワンピースも手も顔も泥だらけのままだ。
「あのコも大人になって、いつか歳を取って人生の旅を終える時が来る‥‥」
一際大きな花火があがり、振動がここまで伝わってきた。
リシャンはそこで言葉を止めた。
「‥‥‥‥」
その輝きは世界から見れば、あの光球のように一瞬でしかない。
人生という花火は、幾重にも想いが重なって開いていく。それは何ものにも代え難い、尊いものなのではないだろうか。
猫を探して見つける‥‥意味のない事だが、それも人生の一ページ。
合理的でなく、意味のない行為。
「フフ‥‥無意味な事も悪くないかもしれない」
リシャンは、そんな事を考えながら、地面を這って汚れた手のひらを見つめて笑った。
しばらく黙っていたクロウが口を開く。
=‥‥休暇は終わりのようです。管理局から次の任務の指示が来ました。シャオティンの足取りが、ここからかなり離れた場所でつかめたという事です=
「‥‥全く」
泥を払いながら立ち上がる。その瞬間、次々と色違いの花火が打ちあがった。背を向けたリシャンの陰が、真っ直ぐに伸びていった。
=名残り惜しそうですね=
「‥‥‥ちょっとね」
=え?=
常になく、あまりにも素直にリシャンがそう答えたので、逆にクロウは言葉をなくした。




