80 フウリュウの夏
=全く、どうしてあなたという人は‥‥=
すぐ店の外で野次馬の中に混じって騒ぎを見ている。認識阻害があるので、店員も客もリシャンの顔も姿も憶えてはいない。
「油断大敵。結果的にテロリストじゃなかった事が分かっただけで、良かったじゃない」
=‥‥‥‥=
ポシェットのクロウがため息をつく。
=もう目立つ事は避けてください。今のを誤魔化す為にガス爆発という事にしましたが、これ以上、続けて何かあるのは不自然ですからね=
「‥‥了解」
この世界の司法機関‥‥警察の車が次々とリシャンの歩いてきた方向へと走り去っていく。思っていたより騒ぎになっているようだ。
そんな喧騒を離れるように、リシャンはビル街を抜けて住宅地まで足を伸ばす。
さすがにここまで来ると、あれほどごったがえしていた人混みは姿を消し、視界のあちこちに自然の緑の色の割合が増えてくる。
電柱という、エネルギーを末端まで運ぶ為のケーブルを支える柱が一定間隔で伸びている。地球上全てからエネルギーを抽出できつつあるリアル世界から比べれば非効率極まりないが、それでも一応は過不足なく、供給されているようだ。その柱にけたたましい音で鳴く、虫という生き物がいる。耳をつんざく様な音を鳴り響かせるそのセミという生き物は、あちこちに無数にいるようで、そこかしこから鳴き声が響いてくる。
「‥‥これは何かのバグ?」
リシャンは両耳を押さえる。
=いえ、ただの自然です=
「よくこんな環境で暮らしていけるものね」
=当時の人々はこのセミの鳴き声をフウリュウという感覚で、楽しんでいたと記憶にあります=
「‥‥フウリュウねえ」
そんな感覚もあるのかと、それで納得したリシャンは手をおろして後ろ手に通りを歩いていく。
広い庭のある一軒家が連なる通りまで出た。まだ新しい道路の中央分離帯には、背の低い植物が整然と植えられており、何処までも続いている。今までの雑然とした街とは、正反対の景色だ。
「‥‥‥‥?」
金属のフェンスの向こうの庭先に、這いつくばっている子供を見つけた。
芝生の上で、四つん這いでズルズルと移動している。
「あのコは何をしているの?」
=さあ=
「‥‥‥‥」
興味を持ったリシャンは近づいてみた。
おさげ髪にした小さな女の子だった。水色の服を泥だらけにしながら、あちこちに顔を向けている。何かを探しているようにも見える。
「こんにちは」
「わ!」
リシャンがフェンス越しに声をかけると、そのコは驚いて、腰をおろした。
「何をしているの?」
「‥‥‥‥あ‥‥えっと」
女の子は顔を引きつらせている。リシャンは答えるまでの間の長さに耐えられずに、目を細めた。




