78 鎌先に突き付けた問い
「君の名前は?」
「遠野楪」
「トオノユズリハ‥‥君にぴったりの美しい響きの名前だね」
男性の言葉がひっかっかった。
「?‥‥あなたは私の何を知ってるの?」
「え?‥‥もちろん、知ってるよ」
「‥‥‥‥」
リシャンは眦を細める。あまりにも不自然なコンタクト‥‥テロリストの作成した違法AIの可能性がある。
「‥‥クロウ‥‥周囲に彼にアクセスしてる糸がないか探って‥‥」
=え?‥‥なぜです?=
「言ってたでしょ? 油断するなって‥‥」
=‥‥それは‥‥そうですが‥‥彼はただ‥‥=
「どうしたのユズリハちゃん。そんな怖い顔をして」
「‥‥‥‥知ってるって‥‥具体的に何を?」
「そうだねえ‥‥」
男性は顔を近づけてくる。不自然にまで綺麗に日焼けした肌と、茶色に染めた髪が、リシャンの顔のすぐ正面に迫った。
「どこかのアイドル事務所とかに所属したりしてる?」
「いえ」
「もったいない!」
急に真顔になった。
「君はすばらしい!」
「‥‥どの辺が?」
今の所、不正アクセスの痕跡は見つからない。だが、シャオティンの仕様はまだ判明していない。彼女が未知の方法で何かをしている可能性も否めない。
「君のその、可憐な表情の奥にある、ひとしきりの鋭さ。吸い込まれそうな白い肌と、黒い瞳‥‥人形もかくやと言わんばかりの、完璧なライン‥‥今まで、これほどの逸材を見た事がない! まさかこんな存在がこの辺に歩いていようとは‥‥神の采配は、気まぐれすぎた。君ならあの村下灯火華を超えるアイドルになれる!」
「‥‥‥‥」
ムラシタ、ヒビカ‥‥彼女のAIは、うまく稼働しているようだ。
「‥‥‥ふん‥」
色々と説明してきてはいるが‥‥。
「つまりあなたが言ってる、私の事が分かったという事は、外見だけと言う事ね。それで何が分かったというの?」
「え?‥‥ああ‥‥それは‥‥」
リシャンに言い返されて、それまでまくし立てていた彼は口ごもってしまう。
リシャンは続けた。
「人が、その人らしいと言える所以は何だか考えた事がある?‥‥外見とか、年齢が若いとか‥‥それはその人が何もしなくても最初から持っていたもの、そんなものじゃない」
「‥‥‥‥」
「人生の中で生きてきた過程で得たものが、その人になっていく‥‥外見だけ、ほんの僅かな時間、話しただけでそれが分かるはずがないでしょ?」
「あ‥‥あ‥‥それは‥‥」
統合政府の方針に異を唱えるテロリストの手口にはよくある話術論理だ。表面上の現象を理由としての仮想世界を歪ませる事の正統性を主張してくる。彼の語り口はそれに似ている。
彼がテロリストに関わっている線が濃くなってきた。
「‥‥‥‥」
リシャンは立ち上がって、左手に鎌を出して、男の鼻先に突き付けた。




