77 不意討ちのコーヒータイム
「店内でお召し上がりですか?」
「‥‥‥いえ、表で」
外のベンチで飲みたかったので、そう答えた。
「‥‥‥‥」
リシャンはしばらくメニューを見つめる。もちろん、字を読む事は出来た。この世界の言語のほとんどを習得しており、そこに問題はない。
数秒後、眉間にシワを寄せて険しい顔になる。
「‥‥あの‥‥ご注文は?」
「‥‥コーヒーを一つ」
「ホットですか。アイスですか?」
「ホットで」
「サイズはどうなされますか?」
「‥‥‥‥」
メニューのサイズを探していたリシャンは、普通はあるはずのS、M、Lや、大、小の表記を見つけられず、唇を噛みしめる。
クロウに聞こうかと一瞬考えたが、それはやめた。ついさっき、何もしてもらう必要がないと言ったばかりで、そんな事を言う事が、はばかられた。
時間だけが過ぎていく。
手元にある小さなメニュー表に視線を落とし、それから指を差した。
「‥‥これで」
「はい、ヴェンティサイズですね、510円になります」
「‥‥‥‥!」
うまく注文出来たと思った矢先、価格を言われて、そこで自分がお金を持っていない事に気が付いた。
「‥‥‥‥クロウ」
店員に聞こえないように、小声で呼ぶ。
=だから待ってって、言ったじゃないですか=
「エージェント権限で、この国の貨幣を作成」
=それは無理です。この世界に流通する貨幣量は決まっています。そこに無尽蔵に作成したら、経済がおかしくなってしまいます=
「少しぐらいいいでしょ!」
大声をあげてしまい、目の前の店員だけでなく、店の奥にいた客も一斉に振り向いた。
「‥‥‥‥お客さま?」
「サイフを忘れました」
仕方なく店から出ようとした時、後ろに並んでいた男性が前に出てきた。
「彼女の分、俺が払います」
「‥‥‥‥?」
そう言って、リシャンのコーヒー代金をトレイの上に乗せた。
「君、こっちに来てくれる?」
商品を受け取ったリシャンは、奥のテーブルで先ほどの男性に呼ばれた。
男性の対面に座る。
二十代半ばくらいの日焼けした若い男性だ。外の暑さに対応する為ぁ、胸元の開いた柄もののシャツを着て、足は短パンだ。
「なぜ、私の分も払ってくれたの?」
「それはねー」
男性は楽しそうだ。問いには答えず、リシャンの顔をじっと見つめる。




