76 仮想街の午後
どこまで行っても世界がある。ここは仮想世界で、ただ作られたもののはず。それなのに、これほど精巧に、これほど広大に‥‥人間の科学力というのは想像以上に凄いものだと感慨深く感じる。
それと同時に、リシャンに悪戯っぽい感情が芽生える。果たしてどこまで作り込まれているのだろうか。何処かにフレーム抜けのようなものはないのだろうか‥‥それを見つけ出したくなり、敢えて大通りから外れて、裏路地へと足を向ける。
「‥‥何処かに‥‥」
裏通りとは言っても、そこには普通に店もあり、人も歩いている。道幅が少し狭いだけで、特別何か変わった事はない。
=ここに何か?=
「‥‥‥‥」
=向こうから大通りに戻れますよ。
「‥‥‥‥」
何かする度に聞いてくるクロウに、リシャンは少し鬱陶しさを感じていた。
「ねえ、こんな時まで付き添うのも、あなたの仕事?」
=もちろんです。リシャンをバックアップするのが私の任務ですから=
「別に何かあるわけじゃないけど」
=あなたにとっては休暇でも、テロリストには関係ない話なので=
「‥‥‥‥それはね」
リシャンは周囲に異常があればすぐに分かった。テロリストが何をしようとしていても、遅れを取る事はない。クロウに警戒してもらうまでもない。
「別に何もしてもらう事はないけど」
=油断は禁物です=
「‥‥‥‥」
リシャンはため息をついて、クロウの言う通りに大通りに戻った。
「あれは‥‥」
商店街らしき通りをしばらく行くと、コーヒーショップの緑の看板が見えた。店の脇に外で飲める木製のテーブルと椅子が置いてある。
リシャンは中へと入って行った。
=え? どうするのです?=
「もちろん、飲んでいくに決まってるでしょ」
=ま、待ってください!=
自動ドアが開き、店内へと入っていく。途端にコーヒーとケーキの甘い匂いに包まれる。
スイーツの置いてあるガラスケースのカウンター越しに、何人かの女性店員がてきぱきとした動作で働いているのが見えた。
「いらっしゃいませ」
店員にそう言われてからリシャンは帽子を取り、壁の上に光って見えるメニュー表を見上げた。




