75 人波と白い風
人混みの中を黙って突き進む。すれ違う人々は、黙っていたり、誰かと話していたり、様々だ。ビルの一階部分には、そんな人々が集い、何かを熱心に行っている。
リシャンはそれが何かを確かめるべく、建物の中へと入った。
「‥‥‥‥布?」
中は、ほぼ若い女性が占めていた。布を裏返したり、体に当ててみたり‥‥そんな事をしながら、笑ったりしている。奥にいるのは学生のようだ。着ている制服は同じデザインな事が確認できる事から、彼女達は同じ学校で、友達どうしなのだろう。
「‥‥‥‥ここは服屋?」
リシャンは予めにセットしてある幾つかの衣類を任意で交換できる。そこにはリシャン自身の好みなどというものはなく、ただ管理局から送られたデータとしてそうしているだけだ。衣類の交換を楽しいと思った事はない。今、着用している白のワンピースも、クロウがデータを送ってきたもので、リシャンが選んだわけではない。
「どうしてこの服を選んだの?」
=休暇中なので、目立つのは避けた方が良いと思いましたから=
ポシェットに偽装しているクロウは、リシャンの腰にぶら下がっている。
「こういうのが目立たない格好って事?」
リシャンはスカートの裾を持ちあげた。服を構成するデータ量は少なく、すぐに脚が見えた。
=そのはずなのですが‥‥どうも違ったみたいです=
「‥‥‥‥」
店の外、通りから何人もの男性がリシャンの方を見ている。何があるのだろうと向いている方向に顔を向けたが、店内の奥には衣類が飾っているだけで、女物のそれには、彼らが用事があるものようには見えない。それとも、誰かに送る為に探しているのか‥‥。リシャンは幾つかの理由を考察した。
「彼らは何?」
=あなたを見ているのですよ=
「なぜ?」
=魅力的に映ったのでしょうね=
「‥‥ふふん」
リシャンは笑みを浮かべた。
もちろん、今のリシャンのこの姿は、リアルのものではない。リアル世界の彼女は生まれながらに機械の補助がなくては生きられない。それでも、年月が経った事で成長した姿は忠実に再現されているはずだ。
「まあ、どうでもいいけどね」
手に持っていた服を置いて、ツカツカとその男性達の方に歩いていった。
彼らは少し慌てて左右に別れ、その間をリシャンは悠々と歩いていく。その途中で髪をかきあげると、彼らはそんなリシャンの姿に釘付けになり、顔を赤くさせた。
「‥‥‥‥フフ」
特に意味はないが、そのまま人混みの中へと歩いていった。
=彼らに何かを言いにいったのかと思ってヒヤヒヤしましたよ=
「そんな事はしないわよ」
少しだけ機嫌の良い顔になり、リシャンは別の通りへと足を向ける。
その通りもやはり人は多く、気を付けないと、ぶつかりそうになる。そんな人々の話し声や車の音、足音や話し声が輪のようにリシャンの周りを回っているかのようだ。
信号機の渡れと止まれの音が交互に鳴り響く。そこの下で何かをついばんでる鳩の群‥‥視線を少しだけ上に向けるとビルの林の窓ガラスに反射して輝く眩しい日の光。更に上に向けると、真夏に特有の沸き上がるような雲が、ビルの隙間、狭い青空一杯に広がっているのが見えた。
「‥‥‥‥‥‥」
リシャンは吹き向ける風を感じて目を閉じる。そこには、ただ心地良さだけがあった。
=どうしました?=
「別に♪」
鼻で笑って軽やかに歩きだす。




