74 死神少女の休日
季節は初夏から夏へと移り変わり、若葉だった萌黄色の街路樹の葉も、気がつかない間に深緑へと変わっていく。
都心の中央では建造物がその変化を鈍化させるが、数多の若者が集い喧騒の絶える事の無いこの街にも、気温が上がり人々が薄着になっていくその様から、確実にその兆候を感じる事が出来る。
スクランブル交差点を、麦わら帽子を被った一人の少女が信号待ちをしている。
遠目からは中学生ぐらいに見えるその少女は、真っ白なワンピースを身にまとっているが、それ以上に、露出している腕や脚、顔の、今まで日に当たった事がないのかと疑う程の白さが、それ以上に目に付いた。
対比で肩より少し下まで伸びた髪は、帽子の端から当たる夏の日差しを受けて黒く輝き、風に揺れる様は、髪自体が黒い波のようにも見えた。
「‥‥‥‥」
前方の信号が青に変わると古めかしい電子音が鳴り、周囲の人々は一斉に歩き始める。ほとんどの人が少女より背が高いが、それでも彼女を一目でも見た者は意識せざるを得ない。すれ違った者のほとんどが、立ち止まって後ろを振り返っていた。
「‥‥全く」
渡り切った所で、少女は悪態をつく。すぐに信号は点滅を始め、遅れてきた男子学生の集団が、少女に気がついて走るのを止めた。
電光掲示板のある曲線的なビルの脇を歩いていく。何処まで行っても人の波は途絶える事がない。
「こんな事をして意味があるの?」
独り言のようだが、襟元には小さなピンマイクがある。
=意味ですか‥‥=
その声は耳のイヤホンから聞こえてくる。
=管理局からの指示です。ここしばらくあまりにも連続で任務が続いたので、休暇を取れという事です=
イヤホンの音声はクロウのものである。今回だけはヘッドセットの形態を取る事になった。
「だから意味の無い事をするのは嫌いなんだけど」
リシャンは帽子をつかんだまま上を向いた。少しだけ吊り上がった切れ長の眦が夏の青空を見上げる。
=意味はまあ‥‥現在、シャオティンとのログを解析中なので、それが終わるまでの時間潰しといった所でしょうか=
「‥‥‥‥全く」
今日、何度目かの同じ言葉を呟く。
休暇というものには縁が無いと考えていたリシャンは、こうして改めて自分が好きに出来る時間が出来た事に戸惑いのようなものを感じていた。
時間を潰す事に意味がある‥‥なぜなら、管理局でシャオティンを分析する事で、次に会った時の対処が容易になるから。そう自分を納得させたリシャンは、ただ街を歩く事にした。




