73 幸福のかたち
「‥‥ハア」
いつしか時間は午前零時を過ぎ、日付が変わっていた。付近にある一際高い山の頂上。そこの杉の先端に立ち、夜空の向こう‥‥遠くに見える街の灯をリシャンは黙って眺める。その光は同じではなく、移動していたり、点滅をしていたり、色が変わったり‥‥常に変わり続けている。
「さっきから同じため息ばかり……おかしいんじゃない?」
「おかしくもなりますよ。一体、どうするつもりなんですか?」
「ログアウト申請に不備があって、それは却下された。テロリストに改変されたAIは消去。代わりに新規でリョウコというAIを配置‥‥それでOK。何か問題でもある?」
「大ありです。ヤマナカリョウコがこれからどうなっていくか、分からないんですよ? もし、暴走したり、それが原因で歪みが発覚したら‥‥ああ‥‥お終いだ‥‥ハア‥‥」
「フフ‥‥あは‥‥」
リシャンはクロウの呟きを聞いて笑った。
笑いながら、シャオティンというテロリストの言った言葉を心の中で思い返してみる。
AIの自由にさせていると不幸になる。それを修正して取り除くのが目的だと‥‥そんな事を彼女は言っていた。
誰もが望むありふれた幸せの種類は少ない。それに比べて、そこに至る人生の途中で不幸に陥る理由の何と多い事だろう。
その種類の格差が、人がなかなか幸福を掴めない理由なのかもしれない。
だが、たった今しがた、山中夫婦はその突然に襲った不幸を乗り越えた。
その先にはまた不幸が訪れるかもしれないが、彼らはこれからも幸福を求め続けるだろう。
それは誰かに強制される話でもない。
今はそう思うようにしよう。
「あはははは!」
リシャンはそんな事を考えている自分が、少しだけ幸せだと思った。




