表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/70

67  裏切りの確証

 閑静な住宅街から離れた、マンションの立ち並ぶベッドタウンの中心区域。そこに涼子の運転する赤い車が走り抜けていく。サングラスの下の瞳は見えない。だが唇をきつく噛みしめており、そこから彼女の苦々しい表情が伝わってくる。

 黄色信号を無理に走り抜ける。後ろからクラクションと怒号が飛んできたが、彼女は全く意に介さない。

 やがて車は一際大きなビルの中へと入っていく。

「あそこが浮気相手の男の家?」

 地上からでは何があるのか分からない程の高空から、リシャンは正確に涼子の動向を観察する。

「はい、ハタノアキト‥‥私立の大学二年生です」

「学生にしては随分と立派な場所に住んでるんじゃない? 親が金持ちだとか、そういうパターン?」

「両親は病院を経営しており、確かに恵まれてはいますが、彼の場合はそれだけでもないようです」

「と言うと?」

「‥‥彼は複数の女性から金銭的な支援をしてもらってるようです」

「涼子もその一人って事ね」

「彼女は夫に内緒でかなりの金額を口座から引き出しています。恐らく、ハタノアキトに提供したものだと」

「へえ‥‥」

 リシャンは腕組みして考え込む。

 つまり陶二が与えたものでは満足できなかったという事になる。浮気相手はそれ以上の何を彼女に与えたのだろうか。

「‥‥‥‥」

 リシャンは急降下してマンションの入り口に立った。

 セキュリティ上、部外者は入れないようになっている扉は、リシャンが近づくと、自動で開いた。

「‥‥‥‥十五階か」

 リシャンの姿が宙に滲む。景色は変わってはいないが、再び現れたのは彼女が口にした十五階だ。

 一つの部屋のドアの前に立つ。防音がしっかりとしており、物音は何も聞こえないが、微かに響いてくる音を拾いあげる。

 声が聞こえる。

 一人は涼子の声、もう一人は若い男のものだ。

「これで確定しましたね。ヤマナカトウジの申告通り、彼のログアウトの準備に入ります。まずはヤマナカトウジの代わりのAIを配置‥‥」

「待って」

 何やら中で大声をあげている。それは男女の営みのものとは思えない。

 リシャンは扉をすり抜けて中へと入った。

 案の定、涼子が大声で男に詰め寄っている。

「どうして!」

「‥‥どうしてって言うかさぁ‥‥」

 髪を派手な赤色に染めた男‥‥ハタノアキトは、面倒臭そうに、ため息をついた。

「だいたい、困るんだよな。用事があるときはこっちから連絡するって言ってただろ? 何、勝手に来てるんだよ」

「会いたかったのよ! 何が駄目なの? 私を好きって言ったじゃない」

「全く‥‥もういいや」

 くわえていたタバコを灰皿にこすりつける。

「あんたみたいな、おばさん‥‥本気で相手にしてたと思ってたの? おめでたいな。金持ってるから相手してやってただけたっての」

「‥‥そんな。私は‥‥」

 リシャンは二人の話を黙って聞いている。

 特に珍しくもない。ありふれた男女の会話だ。

 いくら聞いていても、実直で温厚な陶二と、このハタノアキトという男とは比べようがない。彼女はこの男の何処に惹かれたのだろうか。

「クロウ、プログラム改変の形跡は?」

「ありません」

「‥‥‥‥」

 彼女は自分の意志で陶二を裏切ったという事になる。

「申告を了承」

 クロウの返事がない。

「クロウ?」

 玄関に立っていたはずが、辺りがザザっと砂嵐の様に揺れ始める。

 壁を構成していたフレームが歪み、破片となって崩れ落ちた。

「‥‥‥‥」

 周囲は完全に闇に変わった。

 地に足がついてなく、どちらが上か下かも分からない。目を瞑っているのか、開いているのか‥‥どちらにしても何も変わらない。

「‥‥‥‥」

 リシャンは手を伸ばした。

 その手を誰かが掴む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ