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64  視線の先にあるもの

「よろしくお願いします」

 家政婦として雇われたリシャン……ユズリハは、翌日から我が家で働き始めた。あちこちにフリルの付いたメイドのような格好では、実際には動きの邪魔になるのは分かっている。最近の若いコは、ファッションにばかり拘って、実際は出来ないのでは?‥‥と、私は思ってたけど‥‥。

 出来ない所じゃない。何一つまともに出来ない。

 料理の下ごしらえをさせれば、まな板が切れるし、食材はぐしゃぐしゃ。電子レンジを使わせれば、中に卵を入れて爆発させる。掃除はと言えば、掃除機の使い方を知らないようで、廊下が傷だらけ。窓ふきさせたら、ガラスを割る‥‥一体、今までどうやって生きてきたのかと疑いたくなる。

 募集はネットの求人センターからの応募だったので、その辺はちゃんとしてるはずだけど、改めて確認してみると家事全般全てこなせるとある。職員の目が節穴だったのか、彼女がその辺の審査を通り抜けるのが上手いのか‥‥。

 あ‥‥フライパンから卵を落とした‥‥このコは卵焼きすら満足に出来ないの?

「すみません」

「‥‥早く片付けて‥‥」

「はい」

「‥‥‥‥」

 こんな簡単な事すら失敗するなんて‥‥私の方が上手に出来る‥‥それなのに、男達は見た目だけで彼女を選ぶだろう。

 ならアキトはどう? ううん、大丈夫、こんな小娘に負けるはずがない。

「あ!」

 今度はコップを割った。いい加減、私も限界。

「今日はもう帰っていいわ」

「え?」

「後片づけはやっておくから」

「‥‥でも」

「いいから帰りなさい!」

「!」

 我慢できなくなって、彼女を突き出した。反動で床に倒れる。

「お、おい涼子!」

 陶二が間に入ってきた。

「何も突き飛ばす事、ないだろ?」

「なあに⁈ あなた、このコの肩を持つの?」

「そういう事じゃない。ちょっと失敗したぐらいで、そんなふうな態度はよくないって言ってるんだ」

「何がちょっとよ! 今日だけで何枚、皿を割ったの? どれだけ床を汚したの? 何か料理を作る事が出来た? 掃除は隅まで行き届いた?‥‥全く出来てないのよ!」

「まだ慣れてないようだし、仕方がないだろ」

「‥‥‥‥何‥‥?」

 私はピンと来た。どうしてこんな何も出来ない小娘を雇う事にしたのか‥‥。

「あなた‥‥もしかして、このコと何かあるの?」

「何かって何だよ」

「よりにもよって、未成年と‥‥」

「馬鹿な事を言うな!」

「じゃあ、どうしてこんな何も出来ないコを雇ったのよ!」

「‥‥それは‥‥」

 陶二は言葉を濁して、それから私から目を反らした。

 最悪の答え。もう聞かなくても分かった。

 陶二は他の男達と同じ‥‥若い女が好きなんだ。

 私じゃなくて‥‥。

 いろんな言葉が噴き出してきて、何も言葉が出てこない。

 頭が真っ白になった。

「最低!」

 私は家を飛び出した。


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