61 家政婦は調べる
つまりは山中の妻の涼子の不貞が原因のようだ。
「それによってあなたは全てのやる気を無くしたって事ね」
「‥‥僕は‥‥温かい家庭を築く為に今までやってきました。会社を興したのも、涼子に金銭で辛い思いをさせたくなかったからです。それが‥‥こんな事になるなんて」
「‥‥‥‥」
もちろん涼子はAIである。開始時の初期設定で、彼と同じ幸せな家庭を作るという大目標は原則としてあるはずだ。現在のこの状況は、時間の経過から来るズレが蓄積されたからなのかもしれない。
それにしては大きく変わりすぎてはいるが。
「調査が必要ね。そういうわけで、しばらく私はこの家にいるから、家政婦として雇われた‥‥という事でよろしく」
「お願いします」
山中は頭を下げた。
とりあえず事態を整理する為に、今日の所は一旦、ここから去る事にした。
クロウ‥‥局本部と必要な幾つかの情報をもらう必要もある。
「‥‥‥‥」
山中邸の広い敷地から出た後、リシャンはその家を振り返る。恐らく、誰もが望む理想の住居というものがアレなのだろう。リアル世界ではそもそも、個人が占有出来る面積は制限されており、無駄と思われる庭などはない。現実に戻れば、彼は全てを失うのだ。
「彼が管理局に送ってきた内容の通りですね。プログラムには異常なし。経年によるAI行動の変化は、ごく自然なものです。このまま調書を送れば、普通に認可されるでしょう。これ以上の調査は不要に思いますが=
「‥‥‥まあね」
「何か懸念でも?」
「そうね。何も問題はない。でも、私なりに調べたい事があるのよ」
「どの辺がです?」
「‥‥フフ」
リシャンは笑っただけだった。こういう時、これ以上何を聞いても答えてはくれない事を、クロウはよく知っており、無駄な事はしない事にした。
「ねえクロウ」
「はい」
突然声をあげたりに、カラスはハトのように首を上げた。
「幸せの種類は幾つあると思う?」
「さあ、言葉は一つですよね」
今度はクロウがとぼけた。




