58 お疲れさま
リシャンはリンクの切れたアバターの少女の手を握ったまま、しばらく彼女の顔を見つめていた。
「リシャン」
鏡の奥からクロウが姿を見せる。
「たった今、ヒビカ、ムラシタが死去したと連絡がありました」
「‥‥‥‥」
強く握りしめられていた手を離し、両手を組ませた。
「‥‥お疲れさまでした」
手の平を上にする。彼女のアバターは光の粒へと還元され、リシャンの手の平の中へと消えていった。
「‥‥‥‥」
控室の天井を突き抜け、幾つかの部屋を通り抜けて、さっきまでいたドームの上まで戻る。
四方の出入り口からは、ライブを見終わった観客達が、一斉に帰宅している最中だった。人混みの列が道に太い光を作っている。
「彼女の代わりのAIを作成中です。これで歪みはなくなるでしょう」
「‥‥そうね」
リシャンはそれだけ答えて、ただじっと人の列を見つめている。
「やはり身体に無理をかけすぎたようですね。現実世界でなら、もう十年は安泰だったと思うのですが。彼女もそれは知っていたはずなのですが」
「自分の命の使い方を、彼女は選んだだけ。生まれてきた意味を見つけたかった‥‥」
「‥‥‥‥」
クロウは黙ってしまった。
「だから彼女は幸せのままいったのよ」
「‥‥なるほど‥‥」
夜が更けてきて、風の勢いが増してきた。吹雪となってリシャンの着物と髪を激しく揺らす。そうしてる間に帰宅の人の流れもいつしか消えていた。
「‥‥その割に‥‥気落ちしてるように見えるのですが‥‥」
「私が? そんなわけないでしょ?」
リシャンはフン‥‥と、鼻を鳴らした。
鎌を出して回転させる。
「さあ、次の任務は何?‥‥皆、私が処理してあげる!」
「それは困るんですが」
「ふふ」
リシャンはいつものように笑みを浮かべた。




