57 終わりの控室で
もう何回アンコールに答えただろうか。
もうだめ‥‥こんなに疲れたのはリシャンのしごき以来。
ステージから降りて廊下に入った途端、ふらふらとベンチに腰を下ろした。
佐野さんが走ってきた。
「もうー、ファンの人達が凄くて。あれじゃ、一晩中アンコールさせられちゃうから、灯火華ちゃんは、裏口から出た方がいいと思うわよ」
「あはは‥‥」
もう笑顔さえ作るのが面倒臭い。
「でも、最後の歌。良かったわー。何度もリハで聞いてたけど、私、感動して泣けてきちゃった」
「ありがとうございます」
佐野さんだけじゃなくて、他の人にもそう伝わってくれたなら、もう何も言う事はない。
「じゃ、出口はあっちから、私はここでファンをさばいてるからね」
「はい、よろしくお願いします」
頭を下げて何とか立ち上がった。
ステージ衣装のままでは帰れないので控室に入る。
そこの部屋に、メイクする時に座る椅子があったので、私は座り込んだ。
「‥‥‥‥眠い」
何でこんなにぼーっとしてるんだろう。
早く帰って‥‥帰って‥‥それで、どうするの?
“お疲れ様”
「‥‥‥‥」
どこかで聞いたような、懐かしい声に、眠りの世界の住人になりかけてた私は、元に戻る。
「‥‥‥あれ‥」
薄紫色の着物と、両脇ダンゴで結った髪の少女が、そこに立ってて、笑って私を見てる。
「リシャン‥‥来てくれたんだ」
「約束だしね」
リシャンは私の隣に座った。
「夢が叶ったようね。おめでとう」
「‥‥ありがとう」
ごく自然にリシャンの手を握る。彼女は何は言わずに握り返してくれた。
暖房の切れた冷たい控室が、彼女の体温だけで温かく感じる。
「私‥‥やりきったよ」
「そうね」
「やりたい事‥‥やった‥‥これが多分‥‥私が‥‥意味‥‥」
「‥‥‥‥」
あれ‥‥会ったら色々と話したい事があったのに‥‥言葉が出てこないよ。
でも、最後にこれだけ‥‥。
「‥‥ありが‥‥とう」
何とか言えた。




