54 屋根の上の死神
「久しぶりじゃない?」
首都ドームの膨らんだ屋根の上、死神の鎌を持った着物の少女‥‥リシャンはその中央に立っている男に、そう声をかけた。
絶え間なく降り続く真冬の空‥‥そこにいる者は全て尋常な者ではない。
「何も起こらないみたいね」
「‥‥あなたもいい加減しつこいですね」
スーツ姿の男‥‥テロリスト七十一は舌打ちする。
「それはこっちの台詞」
リシャンは鎌を向けた。刃が雲の切れ間から見えた月の光を反射して碧く輝く。それと当時に足元から歓声が沸き起こった。
ライブが始まったようだ。
演奏の音と、彼女の歌声が天幕を通して聞こえてくる。
「偶然、このドームに隕石が落ちてくる‥‥なんておかしなプログラムを組み入れたみたいだけど‥‥それは事前に阻止させてもらったから。残念ね」
そう言うと、男はため息をついた。
「‥‥あなたは組織の粛清対象になるのが決定しました。いかに政府のエージェントであっても、我が組織‥‥ヴァイアスからは逃げられはしませんので」
「そんな脅しが効くと思ってるの?」
組織の名を言うという事は、ここで確実にしとめる算段があるようだ。
「いえいえ、そんな事は微塵も考えてませんよ」
七十一番は、胸ポケットから畳まれていた白いハンカチを出した。
「第一目標は失敗しましたので、次の目標に移りたいと思います」
広げられたハンカチはたちまち四方へと広がっていく。
「‥‥‥‥」
歌のサビの部分なのか、伴奏の音が振動となって激しく屋根を揺らした。
「では‥‥」
ハンカチは宙の半分近くまで広がった。そしてそのままリシャンの方に倒れていく。
「‥‥‥‥」
ドームの屋根とハンカチの布で挟まれ、布地に人型が浮かび上がった。
「ここで粛清されなさい」
無数の剣が宙から現れ、切っ先が身動きの出来ないリシャンに向けられる。
男が腕を振り下ろすと、剣は一斉にリシャンに向かっていく。
彼女のいる場所は突き刺さった剣の山へと変わった。




