51 誰もが命を燃やしてる
彼女が芸能プロダクションのオーディションに合格してから半年が経った。
最初は目立たなかった彼女‥‥村下灯火華は、天性の歌声と恵まれた容姿から、たちまちのうちにスターへの道を駆け上っていった。
テレビなどでは連日、彼女の話題が上がり、話題の映画のヒロインに抜擢されると、その地位はさらに上昇した。
天使の歌声‥‥そのキャッチフレーズを聞かない日はないほどで、今や他のアイドル達とは一線を画す存在となっている。若い男性のみならず女性も、彼女を理想像として絶大な人気を得ていた。
「驚きましたね。まさかこうも早く、結果が出るとは」
「だから言ったでしょ。あのコは背負ってるもの違うんだって」
かなりの人数が収容できるコンサートホールのステージ上で、彼女は一人、歌っている。
耳を撫でていく彼女の声は、マスコミが報道している通り、聞く人の心を癒してくれる。
リシャンとクロウはホールの真上‥‥海底のマリンスノーのように静かに粉雪舞う空に浮かんで、その声に耳を傾けていた。
「現実の彼女の身体の状態は悪化しています。そもそも仮想世界への接続は体力を使うので、その点を考慮して認可が出なかった経緯もあります。切り上げた方がいいかと思いますが」
「それは彼女は最初から分かって決めた事。命の使い方を自分で決めただけの話。私達がとやかく言う筋合いの話じゃないんじゃない?」
「んー‥‥それは‥‥まあ‥‥そうなんですが‥‥」
クロウは言葉を濁した。
「しかし現れませんね」
話題を変えた。
「‥‥まだまだテロリスト七十一番にとって、これぐらいの人数は眼中にないのかもね」
リシャンは鎌を持つ手を見つめる。
「順調に、ヒビカのライブの箱は大きくなってきて‥‥恐らく、次あたりから‥‥」
ヒビカは自分の力でスターになった。そこにプログラム的改変は見当たらない事から、テロリストも管理局が関わっている事には気づいていないと、リシャンは踏んでいた。
もちろん、大勢のAIを壊滅させるテロリスト七十一の目的は、管理局が掴んでいる事を知っているだろう。それなりに用心はしてくるはずではあるが。
「危険な事には変わりはないですが‥‥」
「もちろん、全力で阻止する。邪魔をするようならタダじゃおかない。それで‥‥向こうの捕獲体勢はちゃんと出来てるんでしょうね」
「もちろん、前回のように逃げられるような事はありません。万全で向かいます」
「管理局の技術も怪しいものね」
「‥‥‥‥」
いつもとは逆にクロウへ嫌味の言葉を放った。




