5 ”完璧な彼”に抱かれる違和感
「僕はひなたちゃんの事は何でも知ってるんだ」
「‥‥‥‥」
先輩は肩に腕をまわしてきた。
私の息遣いが荒くなってくる。
先輩が好き‥‥誰よりも‥‥そう、心の中に刻まれてる。
「幼馴染だからね。僕は子供の時から、ずっと君を見てた‥‥すぐに尻尾を振ってくる他の奴らとは違って、君は僕の事なんて全く、眼中になかった‥‥」
「‥‥‥‥」
何の話をしてるの?
幼馴染? 先輩と?‥‥あれ‥‥そうだったのかな‥‥そうだったかも‥‥そうだった。忘れてた。
先輩の言葉は私の心に響いてくる。
絶対正しいって‥‥どこからか連呼される。
「ようやく夢が叶う‥‥ほら、ひなたも、僕が好きだろう?」
「‥‥うん」
いつの間にか呼び捨て‥‥嬉しい。
先輩は当たり前の事を言ってるだけ。
「‥‥ひなた‥‥」
「‥‥‥‥」
先輩の顔が近づいてくる。友達は全く見えていないのか、カラオケに歌を入れて勝手に歌ってる。不思議な事にその歌声も音楽も私には何も聞こえてこない。
全くの無音‥‥。
先輩の唇が、私に触れようとした瞬間、
「‥‥‥‥!」
小野君の背中が浮かび上がってきて、気が付いたら両手を出して先輩を弾いてた。
先輩は勢い余って、椅子から落ちた。
「‥‥なっ!」
立ち上がった先輩は、凄い表情で私を睨んでる。
「ば、馬鹿な! プログラムがちゃんと動いてないじゃないか! どういう事だ!」
“‥‥ふふ‥‥”
「‥‥‥‥」
無音の室内に笑い声が響いてくる。
「随分と、良い若者になってるじゃない」
片側の壁が真っ暗に‥‥暗いというか、何もなくなってぽっかりと穴が空いた。そこから、人影が浮かび上がってくる。
「‥‥‥‥」
友達がマイクを持ったまま止まってる。
硬直とかじゃなくて、時間が止まってるみたいな。
出てきたその人物は女性‥‥多分、私よりも若い女の子。薄紫色の着物に朱色のラインの入った袖と、同じ朱色の大きな帯をつけてる。顔は真っ白だけど、うっすらと唇と目じりに朱色のラインがひいてある。若そうだけど‥‥笑ってるって言うより、嘲笑してる表情は、大人びてる。
それに‥‥手に持ってるのは‥‥鎌? 刃の金属の部分に反射した光が眩しい。
「‥‥死神‥‥」
私が思い浮かんだのはそれ。あの大きな鎌で人の魂を刈っていく。でも私が知ってる死神は骸骨だけど、あれはどう見ても‥‥女の子だ。




