4 すり替えられた恋心
ビルの林の中は、基本的には人の住む場所ではない。
夕闇迫る中、仕事が終わった人々は、それぞれがここではない住む場所へと帰っていく。ビルの谷間にある大きなスクランブル交差点は、そんな人々の奔流で溢れかえっていた。
そのただ中に、一人の少女が佇む。
ほとんどがスーツ姿の人々の中、少女はその場に似つかわしくない着物を着ており、その手には巨大な鎌を携えていた。
「あれが、今回の無許可アバターです」
クロウは対象に顔を向けてリシャンの視線を促す。
「まるで‥‥‥普通のコみたいね」
少女‥‥リシャンは交差点を走っていくブレザーの制服姿の女子高生を見つめた。
もちろん、リシャンの姿も他人からは見えない。と言うより、見えてはいるが、そこに意識を持っていかれる事はないのだ。
クロウは説明を続ける。
「あのアバターが生成されたのは、この世界の時間で一か月前。それによって大きな歪みが生じています。早急に対処をしなければなりません」
「‥‥‥かと言って、あのコを消せば、それで良いってわけじゃないのよね」
「はい、あのアバターを消した所で、また新たに作られれば意味がありません。テロリストの筋書きはそのまま進められていくでしょう。大元の作成者を探す必要があります」
「‥‥‥‥」
走っていく彼女の後ろ姿、その前を行く友達の姿、周りに人間‥‥そこに意識を写したAIによらない本物?‥‥の人間が紛れている。一見しただけでは何も変わらない。
「ふふ‥‥まずは動向を観察しますか‥‥」
リシャンは彼女の後を追うように歩きだす。
結局ね、私は友達三人とカラオケ店の中にいるの。
「じゃ、次、ひなたの番ね!」
「‥‥‥‥」
マイクを渡されたけど‥‥流行りの歌って何だっけ?
知ってるはずなんだけど、何も思い出せない。これは完全にボケてしまったのだろうか。
とりあえずお勧めを適当に‥‥と机の上のパネルに指をかけた時、
「あ、先輩!」
「!」
さっき話してた大橋先輩が戸を開けて中に入ってきた。
「ごめん、ごめん、委員会の仕事が長引いちゃってさ。どう? 盛り上がってる?」
先輩は爽やかな感じでそう言って、持ってきたカバンを棚にあげた。
「ほら、ひなた。あなたの好きな大橋先輩だよ」
「‥‥‥‥」
私にそう耳打ちしてくるのは、友達の‥‥名前、名前‥‥知ってるんだけど。分からない。何で?
「やあ、ひなたちゃん。今日は君とデュエットしたい歌があってさ」
先輩は友達をかき分けて奥にいた私の隣に座った。
「えっと‥‥」
友達に助け船を出してもらおうと顔を向けたけど、まるで他の三人は私と先輩は存在してないかのように、話してる。
「‥‥‥‥」
何で? 大橋先輩は女性徒の人気が高いんだよね。皆、どうしてしまったの?
「ひなたちゃんの好きな歌は‥‥これだよね」
「‥‥‥え?」
知らない。題名を見ても、歌ってる人を見ても何も分からない。それでもなぜか、歌詞とリズムが頭の中に記憶されてる。




