45 夢の扉の前で
「‥‥いつまで手を握ってるの?」
「あ!」
気が付けば、リシャンの手をしっかりと握ってた。
慌てて手を離す。
「それじゃ」
また先に行ったのかと思ったけど、表で車のクラクションが鳴った。
「タクシーを呼んだから‥‥さあ、乗って」
「‥‥‥‥」
私は後部座席に押し込まれる。続いてリシャンも乗り込んだ。
「青葉プロダクションまで」
「分かりました」
リシャンがそう言うと、運転手さんはおもむろに車を走りださせる。
「え? 青葉プロダクション⁈」
この世界の、この国では最大手の芸能事務所。
いきなりそんなとこに行って‥‥。
多分、たくさんの人がいて、凄い有名人がいて‥‥そこに私なんかが、のこのこと面接なんて行ったら‥‥。
「‥‥‥‥」
私は景色を見る余裕もなくて、ただ俯いて握りしめた自分の手をじっと見つめる。力が入りすぎてちょっと震えてるし。
「大丈夫。ヒビカ‥‥あなたなら出来る」
そんな私の手にリシャンは上から手を被せてきた。真っ白だけど温かい手の温もりが、心まで癒してくれるみたい。
「気楽に言うけど‥‥」
「あなたは、寝た切りになった十年間、ここまでの想いをずっと心に刻んできた。それは他の誰よりも強い。だから何も心配する必要はないのよ」
「‥‥‥‥」
何でリシャンは私の心の中まで知ってるんだろうか。病室で動けない時の気持ちなんて、誰にも話してないのに。
私が手の甲を逆さまにしてリシャンの手を握ると、彼女も握り返してくれた。
都心の真ん中、目的地のプロダクションまで三十分。車にしては長かったけど、彼女の手を握ってたら、乗ってる時間はあっと言う間に終わった。
「着きましたよ」
タクシーのドアが自動で開き、私は先に降りた。
「‥‥‥‥」
見上げる程の大きなビル。窓は幾重にも上に重なってて、あの数の分だけ階がある。そこには本物?のアイドルの人達が大勢いる。
リシャンは先に入って受付の女性と何かを話してる。
私も遅れて開いた自動ドアから中へと入った。
「オーディション会場は三十六階の会議室だそうよ」
「うん」
「じゃ、私はあとで来るから」
「え? ついてきてくれないの?」
「これはあなたの物語。主役はあなたなの」
「‥‥うん」
そう言われたら納得するしかない。
そう‥‥自分で決めた事だもの。
自分の夢は自分で叶えるしかない。
「‥‥よし! 行くか!」
私は心の中でファイティングポーズして、エントランスにある高級そうなエレベータ―に乗り込んだ。




