40 一秒だって無駄にできない
「もちろん」
この世界の住人は食事も睡眠もとる。
「まずは力をつける事、そして魅力的になる事。それを支える体力をつける事‥‥それが当面の目標」
「はい」
「ある程度の歌唱力がついたら、芸能事務所に売り込みに行く。そこで知名度を上げていく」
「‥‥‥‥」
「最終目標は、いかに多くの観客を集められるか」
「‥‥‥‥」
ヒビカは息を飲みこむ。
「分かりました!」
「そうそう、その意気」
リシャンは満足そうな顔でうなづいてる。
「じゃあ、今から行くから準備して」
「今から?」
「あまり時間がないのは分かってるでしょ?」
「‥‥うん」
分かってる。私は一分、一秒、無駄には出来ないんだ。
「じゃあ、隣町まで走る!」
「え? 走る⁈」
「この家の財政状況をシュミレートした結果、そう何度もタクシーは使えない。歩くのは時間がもったいない。だから走るしかないわね」
「え? あ‥‥うん」
ブーツからスニーカーに履き替える。外は肌寒いけど、そんな長距離を走るなら、寒いとかないだろうし。
「じゃ、私は目的地で待ってるから」
リシャンはそう言って消えた。
つまり、私一人で走っていかなければならない。
「‥‥いや! 行ける! 行くんだ!」
見えないハチマキを締めて、私はバックを肩にかけて走りだす。
タッタッタ‥‥と、最初は良いペースだったけど、だんだん足取りが怪しくなってくる。
苦しくて息があがってる。ここは本当に仮想世界なんだろうか?
時間を見たら時間まであと十分。どう考えても無理な気がする。




