37 私にできること全部
「‥‥‥‥」
時間にして、ものの数秒。私はその僅かな時間に、頭の中でひたすら考えていた。
私は‥‥。
「待って!」
後ろに回していた彼女の腕を掴んだ。
「‥‥私‥‥」
「‥‥‥‥」
「私、歌いたい!」
「‥‥‥‥」
リシャンの白い手が、私の手を掴み返してきた。
「まだ、どうすればいいのか分からないけど‥‥でも、頑張ってみる。出来る事は全部やって‥‥それでもダメかもしれないけど‥‥」
「ふーん‥‥」
今度は急に振りむいてきた。そして両手で私の頭を掴んで、彼女の顔のすぐ正面に向かせる。
「やっぱり、あなた、面白いわね。‥‥だったら、協力してあげる」
「ほんとに⁉」
「その言葉が本当ならね」
「‥‥‥‥」
「それに、やるのはあなた本人。私は口を出すだけ」
「‥‥うん」
完全に年上の威厳みたいなものはなくなってる。
今はこの少女に従おうと思う。
「では、また後に。それまで、この仮想空間を堪能してなさい」
リシャンの背後に真っ黒な穴が現れ、そしてその中へと消えて行った。
残された暗黒の穴はあっと言う間に小さくなって、最後に弾けてなくなった。
「‥‥‥‥」
すぐ後ろにあった窓は開けたままで、カーテンが靡いている。曇っていた空は、完全に青空に変わってて、家々の屋根の上の雪に反射した光が眩しい。
通りの向こう、そこに七色の半円の光が見える。
あれは多分、虹というものだ。更にその奥に見える海も白く輝いて見える。
「‥‥‥‥」
美しい‥‥それ以外の言葉が浮かんでこない。
リシャンの言う通り、ううん、彼女の言葉がなくても、今はこの世界を感じていこうと思う。




