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37/70

37  私にできること全部

「‥‥‥‥」

 時間にして、ものの数秒。私はその僅かな時間に、頭の中でひたすら考えていた。

 私は‥‥。

「待って!」

 後ろに回していた彼女の腕を掴んだ。

「‥‥私‥‥」

「‥‥‥‥」

「私、歌いたい!」

「‥‥‥‥」

 リシャンの白い手が、私の手を掴み返してきた。

「まだ、どうすればいいのか分からないけど‥‥でも、頑張ってみる。出来る事は全部やって‥‥それでもダメかもしれないけど‥‥」

「ふーん‥‥」

今度は急に振りむいてきた。そして両手で私の頭を掴んで、彼女の顔のすぐ正面に向かせる。

「やっぱり、あなた、面白いわね。‥‥だったら、協力してあげる」

「ほんとに⁉」

「その言葉が本当ならね」

「‥‥‥‥」

「それに、やるのはあなた本人。私は口を出すだけ」

「‥‥うん」

 完全に年上の威厳みたいなものはなくなってる。

今はこの少女に従おうと思う。

「では、また後に。それまで、この仮想空間を堪能してなさい」

 リシャンの背後に真っ黒な穴が現れ、そしてその中へと消えて行った。

 残された暗黒の穴はあっと言う間に小さくなって、最後に弾けてなくなった。

「‥‥‥‥」

 すぐ後ろにあった窓は開けたままで、カーテンが靡いている。曇っていた空は、完全に青空に変わってて、家々の屋根の上の雪に反射した光が眩しい。

 通りの向こう、そこに七色の半円の光が見える。

 あれは多分、虹というものだ。更にその奥に見える海も白く輝いて見える。

「‥‥‥‥」

 美しい‥‥それ以外の言葉が浮かんでこない。

リシャンの言う通り、ううん、彼女の言葉がなくても、今はこの世界を感じていこうと思う。


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