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32  風に消える紙片

 ヒビカ、ムラシタは現実世界の人間だ。

 二十六歳の女性。父親は政府に備品を支給する為の会社を営んでおり、業績もかなりあげている。そのおかげで彼女は比較的安全なシェルター中央で生活する事ができていた。順風満帆に見えていたが、彼女が十六になった時、不治の病気である放射性物質由来の病が発覚してそれまでの人生が一変する。

 それから十年‥‥彼女の世界は狭い病室の中だけになった。治療法はなく、このまま衰弱して亡くなるのを待つのみである。

「彼女がどうかしたのですか?」

「ちょっとね」

 前に見た時点でリシャンは、彼女に何か思う所はなかった。

 リアル世界ではよくある話である。

だが記憶に止めていた理由は、プロフィールの裏にあった、備考欄である。

 そこには彼女の想いが書かれていた。

その境遇の中、ずっと同じ思いを抱き、病室の窓から赤茶色の空を見上げて過ごしていた。以前に任務リストで見た時からそこが引っかかっていた。

「‥‥もしかしたら‥‥ね」

 リシャンが宙に飛ばした紙は燃えて一瞬で灰になって風に乗って消えていった。

「何を考えているのですか?」

「大丈夫、目立つ事はしないから」

「頼みますよ」

 そう言ったリシャンをクロウは全く信用していない。

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