31 蒼い月の下で
リシャンは廃墟となった施設を見渡しながら、そんな事を考える。
「‥‥ふふ」
立ち止まって空を見上げて笑った。
「リシャン‥‥」
「何?」
「テロリストの確保‥‥失敗したと連絡がありました。特定された位置は直後にダミーに置き換えられてしまったそうです。以後の足取りも消去されてしまい、追跡は困難です」
「強制終了でしばらく意識は失ってるはずだけど‥‥やっぱり他にバックアップしてる奴がいるみたいね」
残念がるでもなく、リシャンはフン‥‥と、青く光る月に向けて鼻を鳴らす。
「それによって以降の任務も修正されます。リシャンにはこのテロリスト七十一の対処にあたってもらいます」
「そう」
件のテロリスト七十一は、人の多く集まる場所を破壊し、AIを大量消去するのが常套手段だ。そうする事でこの仮想現実のバグを拡大させるのが目的で、今まで何度か実行されてしまっている。
それはリシャン以外のエージェントが担当していた件ではあったが、これ以上は世界のシステムに深刻なダメージをもたらしてしまう。このまま放置するわけにはいかなかった。
「さて、具体的にどうしようかしらね‥‥」
偶然が重なった事で、今回は七十一を捉える絶好の機会だった。そんな幸運は続くわけがない。
罠が必要だ。それも相手に悟られない自然な罠が。
しばらくあごに手を当てて考えていた。
「そうね‥‥‥‥クロウ」
「はい」
「以前に、移住却下リストにあったヒビカ、ムラシタ‥‥彼女の資料を見せて」
「え? なぜですか?」
「いいから、早く」
リシャンの手の上に一枚の紙がヒラヒラと舞い降りる。そこに一人の女性のプロフィールが書いてあった。




