30 刹那の楽園
それまで遠慮でもしてたかのように、風が彼女の着物の裾を揺らした。
「現在、局の部隊がテロリストの位置に向かっています
いつからそこにいたのか‥‥朽ちている街灯の上からクロウが下りてきた。
「‥‥妙な事を言っていましたね。崩壊は止められないとか」
「ただの捨て台詞じゃないの?」
少女‥‥リシャンは杖をクルクルと回転させ、柄の先をコンクリにトンと打ちつけた。
切った所で血が出るわけでもなく、汚れたりもしなかったが、終わった後にこうするのは彼女の癖のようなものだ。
「最近、テロリストの質が変わったような感じがします」
クロウは話を続ける。
「どんな感じに?」
「今まではそれぞれの事件は単独犯だと考えられてましたが、プロファイリングすると横の繋がりがある可能性の方が大きいようです」
「あ、そう。何かの組織があるのかもしれないって事ね」
リシャンは杖を空中に手放して消し、さっさと歩きだす。
足元は舗装はされてはいるが、隙間からは草が伸びており、長い年月、放置されてきた事がそれでうかがえる。
視点を上にあげても、見えるのは錆びたメリーゴーランド、折れたジェットコースターのレール。屋根の落ちた何かの券売の為の小屋‥‥。
かつてはここで大勢の人で賑わっていたのだろうが、今では見る影もない。近くにもっと大きな資本の巨大テーマパークが出来て、人気はそこに流れたようだった。
「‥‥‥ここは‥‥何の為にあったのだと思う?」
「それは、遊興の為でしょう」
「そうね」
クロウは至極、真っ当な答えしか返してこない。返ってくる言葉が分かってはいても、敢えて聞いていた。
遊興とは楽しむ事。この遊園地という狭い空間の中、しばらく外とは離れた夢の世界としてそれぞれの愉悦を満足させていく。だがここから出ればそれは終わり、ほんの数時間、短いひと時を楽しむ為だけにこの施設の存在の意味があった。
ここに来て、また出て行くだけの行為には、思い出以外の何も残らない。それでも刹那の瞬間、人々は求めていた。
何にもならない事に熱意を注ぐ事に意味があるのだろうか。
リシャンは廃墟となった施設を見渡しながら、そんな事を考える。




