29 命の使い方
「ま! 待ってくれ! 俺は!」
午前零時を過ぎた辺り、ここは都心から程近い、テーマパークではあったが、今は閉鎖されており、全ての灯の落ちた園内には、もちろん人影はないはずである。だが、そこに、ネクタイを締めた若いサラリーマンふうの男性の声が響く。
冷静ではない、懇願するような震えた大声は、その閑散とした施設の中をどこまでも突き抜けていく。
腰を抜かして座り込んでいる男性に向かって、小さい足音が聞こえてくる。
コツコツ‥‥という音は小さなものだったが、それでも風の音に負けないぐらい、辺りを駆け巡り、発した元が何処かはそこから見つけるのは難しい。
「今まで散々、他人の命を奪ってきて、いざ自分がそうなったらその言いぐさ。みっともないと思わない? 無差別爆破犯人のテロリスト七十一さん」
月が雲から顔をだすと、その声の主の姿がゆっくりと露わになっていく。
それは深紅の帯で薄紫色の着物を締めた、まだ幼い少女だった。
夜の闇より黒い髪は頭の両サイドでまとめられ、うなじからこぼれた髪の毛が風に靡いている。同じ色の黒い瞳は、怯える男の顔を感情なく映している。
「‥だから‥‥俺は誰の命も奪ってない! 俺がやってきたのは、AIだけだ。ただのデータを削除しただけだ!」
「それは、この仮想世界を壊しかねない重罪」
彼女は手に持っていた彼女より大きな鎌の刃を男に向けた。
「管理局規定では、仮想世界に被害をもたらす計画を企てた者、実行した者、もしくは関わった者、理由の如何なく無期懲役。この件に関して法廷も弁護人も除外」
抑揚の無い声で淡々と説明する。
「それは、お前たち管理局‥‥統合政府が勝手に作った法案だろう! こんなもので人を堕落させて、それで勝手に裁く!」
「あなたがどう思おうが、それで世界は変わらない」
水色に輝く鎌を振り上げる。
「いや、変わる! お前達は知らないだろうが、この世界は崩壊していく‥‥それはもう止められな‥」
「ふん」
「ぐはっ!」
言葉が終わる前に鎌が男の首を刎ねる。二つに分断されたそれぞれが光の粒子に分解されてすぐに消え去った。




