26 消しても選ばれなかった
「う‥‥う‥‥」
「‥‥‥‥」
リシャンの腕の中で泣きじゃくるその姿は、高校生ではなく、ただの幼子だ。
「理由はどうであれ、この世界を狂わせる存在には違いありません。管理局規定により、直ちにそのアバターを消去してください」
「‥‥そうね」
頭を優しく撫でる。それに呼応するかのように、リシャンに強く抱き着いてきた。
「その前にやる事がある」
柳瀬の腕を離してリシャンは立ち上がった。
教室中の窓が割れて吹き飛び、カーテンが激しく靡く。
“GAA!”
“GIAA!
同時に複数の釜を持った天使が室内に飛び込んできた。
そして一人の少女がただの暗黒になった窓の奥からスっ‥‥と、音もなく姿を現す。
それはリシャンと柳瀬幹夫と同じクラスの女子。
ただの普通の女子高生。
「これは‥‥」
「これこそ、黒幕って事」
《‥‥許さない》
少女は口を開く。
《‥‥柳瀬君の‥‥絵の主人公に‥‥思い人になるのは‥‥この私だけ‥‥》
「だから、先にモデルに選ばれたクラスメイトを無き者にしたって事? バカじゃないの?」
《‥‥‥‥‥‥》
「他のコが消える事と、彼があなたを選ぶのは別問題」
リシャンはフフンと鼻を鳴らした。それから柳瀬幹夫を抱きしめる。
「先に選ばれた七人の生徒を消してもあなたは彼に選ばれなかった。それから転校してきた私を選んだ‥‥つまりあなたは‥‥」
《‥‥そんなはずは!》
「違うと言うなら証明してみせなさいよ!」
“GIAA!”
「フン!」
ヒュン‥‥という鎌イタチの風が、リシャンを襲おうとしていた天使たちを二つに切り裂いた。
リシャンは着物の裾がまくれないほどの速さで、ゆっくりと歩いていく。
《‥‥私は‥‥ただ‥‥》
彼女の口が震えている。遠くに倒れている柳瀬をただ見つめていた。
「こんな現象を起こせるなんてね、どれだけ強く思ったの?」
「ただの思考ルーチンの過負荷によるバグが、他の環境パラメーターに影響を与えただけです」
「そうかもね」
肯定の言葉を発してはいたが、リシャンは納得してはいなかった。
いくら負荷をかけても、こうはならない。それをただの偶然と片付けるには浅慮すぎる気がしてならない。
「‥‥‥‥」
常識では起きない事が起きる事、それは確か別の言葉があった気がする。




