22 静けさが誘うもの
「さて、ここからは慎重に‥‥」
そう呟きつつも、心中では彼がどのような行動を起こすのか、期待しかしていない。
これから物事が予想より大きく動くかもしれない‥‥そんな時に心が躍るのはリシャンの癖のようなものだ。
美術室は部室棟の一番奥にある。同じ文化部でも吹奏楽部などの華やかな部活と違い、地味な印象は否めない。一応、記録上は五人が所属している事にはなっているが、その全員が真面目に活動しているとも思えない。
「‥‥‥‥」
リシャンは部室の扉の前に立った。ドアの窓は光が入らないように暗幕がかけられており、中は見えない。光による作品の劣化を防ぐ意味合いがあるのだろうが、この黒い幕は、まるで来る者を拒んでいるかの様に見える。
「‥‥ふん」
取手に手をかけると、一気に開いた。
中は思っていたよりも明るい。
目に飛び込んできたその光と同時に、油のような匂いが感じられる。
普段、授業で使うときの机や椅子は脇に片付けられており、中央に少し広い空間が出来ている。そこにイーゼル‥‥絵画用のスタンドがあり、柳瀬幹夫は置いてある絵と向かいあうように座っていた。
「何だ、遠野さんか‥‥びっくりした‥‥」
「ここに来る予定だから驚く事は何もないでしょ?」
「その‥‥突然入ってきたから」
「?」
ノックして伺うという事をリシャンは知らない。意味が分からず首を傾げるだけだった。
「遠野さん、とりあえず、適当な所に座って」
言われて近くにあった椅子に座る。
「それで、私は何をしたら良いの?」
「そこにじっと座っててくれればいいよ」
「そう」
リシャンは近くの椅子に腰を下ろす。柳瀬幹夫がキャンパス越しに対面になる。
しばらく経ってもなかなか描き始める様子がない。
「そう見られると照れるよ」
「正面を向いてなくていいの?」
「そうだね、ちょっと斜め下ぐらいで」
「‥‥‥‥」
視線を落とす。そこには幾つかのキャンパスが置いてあった。
「それは、あなたの作品?」
「え?‥‥‥ああ、そうだよ」
「見せてもらってもいい?」
「どうぞ」
柳瀬幹夫は机の上に一つずつキャンパスを置いていく。




