21 普通の仮面の裏側で
「それは‥‥何て言うか‥‥」
「‥‥‥‥」
全く、はっきりしない男だ。リシャンは心の中でため息をつく。
「‥‥遠野さんが‥‥綺麗だから‥‥」
「‥‥‥‥ふふ」
聞きたい答えが返ってきた。思わず笑い声がもれる。
「別にいいけど」
「そう? 良かった!」
顔を見ると、心底喜んでいるのが分かる。
「じゃあ、放課後に美術室に来てください!」
「ええ」
そこまで会話した所で始業のチャイムが鳴る。それぞれバラバラだった生徒達は自分の席へと戻っていく。
「‥‥‥‥」
黒板の字を見つめながらリシャンは考える。
もしこれが、背後にいる者のリアクションなら、話は簡単だ。
柳瀬幹夫に糸をつけて監視すればいい。いつかは網にかかる。それで終わりだ。何れかのタイミングで襲ってくるかもしれないが、それは問題にはならない。彼が事件と関係がないのなら、それはそれで構わない。時間が経てばまた別の反応があるはずだ。
「では、次の問題を‥‥遠野さん、前に出て書いてください」
「はい」
面倒な‥‥と考えたが、今のこの状況もテロリストが見ている可能性もある。リシャンは立ち上がって、教壇の前まで歩いた。
ただのアバターに成りすましてはいるが、おかしな事をすればそこから管理局のエージェントである事が露呈するかもしれない。
今は普通の女子高生。それを心して黒板に向かって回答を書いていく。
「む‥‥」
ここで疑問が生まれた。普通というのはどういう事なのだろうと。
「‥‥‥‥」
答えを書こうとしたリシャンの手が止まった。
「先生」
「何ですか?」
「問題文、三段目の式が間違っています」
「ん?」
「この場合は、ここだけ訂正するよりも‥‥」
リシャンは問題文の数式を全部消して新たに書き直していく。
静まり返った教室内に、黒板にうちつけるチョークのカツカツ‥‥という音が響く。
「こっちの方が‥‥間延びしていた問題文のこの箇所を省いて‥‥ああ、これで、すっきりしました。あのままだと質題者として頭の程度が疑われましたから‥‥そして答えは‥‥こうですね」
「‥‥‥‥あ、ああ‥‥正解だ」
「‥‥‥‥」
軽く会釈して席に戻る。
若干、教師が苛ついているようにも見えるが、目下から不手際を指摘された事からの感想であり、それは予想の範疇にある。つまりこれが普通の対応なのだろうと、リシャンは考えた。
そのはずなのだが、同格のはずの生徒達に唖然とされている事に疑問を感じてもいる。代弁してやったのに、何がだめだったのか‥‥リシャンには理由が分からない。
その注目している中に、柳瀬幹夫を確認した。
彼の表情は他の生徒とは少し違うようだった。
まだ、彼とテロリストを結び付けるものは何もない。
約束は今日の放課後、絵のモデルと言っていたが、果たしてそれだけだろうか。
「ふふ‥‥」
リシャンはほくそ笑む。
そうして最後の授業が終わる。




