20 傍観者の心が動く時
翌日になり、リシャンは授業中の教室の自分の席から周りを見渡す。
席がまた一つ空いていており、女子の人数はいよいよ絞られてきている。残っている彼女達は、危機が迫っているかもしれないという事を認識は出来ない。
英語の授業が終わる。この区域にリアルの人間の精神を移したアバターがいないのにも関わらず、遥かな遠い過去に行われていた学校の授業というものを、AIは忠実に再現している。リシャンは感心しながら授業を聞く‥‥と、言うよりは傍観していた。
終礼の合図で皆が席を立ち、それから一礼する。次の授業までの束の間の時間、生徒達はそれぞれの意志で好きなように休息を取る。
「‥‥‥‥あの‥‥遠野さん」
座ったままでいたリシャンは、男子生徒に声をかけられ、顔を上げた。
「‥‥何でしょう?」
「‥‥‥‥」
リシャンはその生徒を見つめる。彼は男性とは思えない程に線が細い‥‥つまり華奢な感じだ。浮かべている笑みは、その整った顔立ちと相まって、かなり穏やかで優しい印象を受ける。
もちろん、リシャンはクラス全員の名前や顔などのデータは既に頭に入れている。
彼の名前は柳瀬幹夫‥‥美術部の一員で、今までに何度も賞を取るほどの絵を描いている。成績はそれほど良くはないが、それは絵を描く為に、一日の時間のほとんどを費やしているからなのだろう。
絵を描く事以外に興味のない彼が何の用なのだろうか‥‥リシャンはその理由を幾つか考えながら、彼の顔をじっと見つめる。
「あの‥‥実は、僕は美術部の部員で‥‥絵を描いてるんだけど‥‥」
「‥‥‥‥」
「あ、僕の絵は‥‥人物画で‥‥」
「‥‥‥‥」
リシャンは彼が一通りの説明が終わるまで、話の腰を折らない様に黙っていたが、次第に彼の顔が赤くなっていくのを見て取る事が出来た。
「えっと‥‥あの‥‥」
「‥‥‥‥」
なぜか焦っているようだ。
「その‥‥君に絵のモデルになってほしいんだ」
「‥‥私が?」
「駄目‥‥かな?」
「どうして私なの?」
リシャンは目を細めた。これは意地悪な質問だが、敢えてリシャンは聞きたかった。




