19 存在を奪わない選択
“GIAAA!”
天使は奇声を発した、その腕にはいつの間にか鎌を持っており、大きく女性徒に向けて振り下ろそうとしていた。
「な‥‥なに⁉‥‥いやあああ!」
頭上に突き刺さるその直前、リシャンの鎌が、天使の赤色に光る鎌を弾いた。
“GI‥‥”
「悪いけど、その道具は私の専用なの‥‥」
リシャンが振り上げると、天使の鎌も後ろへと弾かれ、大きくよろめく。
“GII!”
天使は体勢を立て直して振り下ろす。だが、リシャンは動かない。
リシャンの頭に刃が当たった瞬間、ガシ‥‥という音が響く。
確かに命中した。だがリシャンは微動だにせず、ただ笑みを浮かべている。
“G?”
「だから、無理って事!」
“UGI‥‥!”
ヒュン‥‥という風切り音とともに、碧い光が天使の頭上から足下まで真っ直ぐに伸びた。左右二つに分断されそれぞれ両側に倒れるが、地面に着いた瞬間に、光の粒となって消えた。
何事もなかったかのように、ただ風の音だけが流れていく。
「そのコはどう?」
倒れている女子生徒の脇にいるクロウに状態を聞いた。
「無事ですが‥‥それ故に困った問題が発生してしまいますね」
「問題?」
「彼女は今の事を記憶しているでしょう。事件に発展すれば、大事になります。特例として記憶を改ざんしてなかった事にしても、そうした処置をした事をこの事件の首謀者が知れば、警戒を強めて隠れてしまう事になるでしょう」
「どうすればいいと思う?」
「背後にいる何者かの目論見通り、彼女の存在を消去するべきだと思います。狙いはクラスの女子のようです。彼女が消えたら、もしかしたら次のターゲットはリシャン‥‥あなたかもしれません。それは好機となります」
「‥‥‥そうね‥」
碧く点滅する鎌の刃を彼女の胸に突き立てた。
クロウの言うような事はリシャンにも分かっていた。だが、そのまま彼女を消去する気にもなれなかった。
「‥‥‥‥」
鎌を引っ込める。
「リシャン?」
「彼女はここで他の人との関係を全て断たれた。誰も彼女の事を覚えていないし、知らない」
「‥‥‥‥」
「でも存在は無くならない。通り魔に襲われたショックで他の町へと引っ越した‥‥それから新しい生活が始まる‥‥と、いう事でいいわよね?」
「全く、面倒な事をまた‥‥二局面の変更が必要になります。複雑な変更をするとデバックが大変なんですが」
「そうね、お願い」
悪態をつきながらも、クロウは後始末をしっかりとやってくれる。信頼しているわけではなかったが、信用はしていた。
彼女の身体が光の粒子に包まれて消えていく。そこには何も残ってはいないが、彼女は記憶を持ったまま、別の地域で新しい人生を刻む事になる。
「問題がまだ残っています。テロリストはあのクラスの女性徒をターゲットにしている可能性が高いですが、その選択基準が不明のままです」
「そうね、だったら直接聞いてみましょう」
「直接?」
「その辺は聞き取りとか、地味な調査を続けるしかないんじゃない?」
「地味でお願いしたいものですが‥‥まあ、無理でしょう」
「最近、嫌味のレベルが上がったんじゃない?」
クロウはため息をついて周囲に溶け込んで消えて行った。




