182 孤独を知った文明
=それでは賭けをしましょう。私達がこれからあなたに真実を見せます。それでも、なお、考えを改めないのかどうかを‥‥=
「‥‥‥‥真実?」
この上、まだ何か隠し事があるのだろうか?
「!」
周囲が白一色に塗りつぶされ、目が慣れてきた頃には別の場所に立っていた。
足元には何もない。遥か眼下には碧い地球がある。昔はそうだったと聞いている蒼く輝く星‥‥あの青い部分が海で、あちこちにちらばる茶色の部分が陸地‥‥その上を薄皮の様に雲が覆っている。漆黒の宇宙の只中、尋常ではない存在感を示している。宇宙の只中にいると逆に星は見えない。ただ少し遠くに太陽と月が確認できるだけである。
「クロウ!」
呼びかけたが返事はない。この空間にいるのは二人だけのようだ。
=あれが人類が生まれ、育んできた星、地球です。当初は無限に広がる宇宙の中では特に珍しくもない、ありふれた星だと思われてきました。ですが、人類は観察機器をいくら発達させても、他に文明を発見する事は出来ていません。今から三世紀程前、この宇宙において人類は唯一無二であり、孤独な存在なのだという事を知りました。つまり、人類がいなければ、観測する者は誰もおらず、時間も空間も意味がありません=
「‥‥‥‥」
統合政府の知識集合体の彼女は色々と話しているが、リシャンの心に響いたのは、人類がこの世界で孤独だという事だけだった。
=二十一世紀の中ほどまで、地球上では無数の国家が存在し、それぞれが協力したり、争いあったり‥‥まとまりのない時間が過ぎていきました。ですが‥‥=
「‥‥‥‥」
地球上のあちこちに爆発が円心状に広がっている。普通の爆発ではない。しばらくすると青かった星の表面は茶色へとゆっくりと変わっていった。
=最初は二国間の戦争が発端でした。その戦争が終結した後、それぞれを背後から支援していた国同士が争いはじめ、やがて世界中を巻き込んだ争いに発展していきました。このまま続けても共倒れにあるのは明らかです。私達は過去の出来事を解析して、後の判断材料に生かします。当時の私達は人間の思考の補助でしかありませんでしたが、それでも、なぜ、そんな無意味な事をするのかいくら解析しても分かりませんでした=
「‥‥‥‥」
場面は虚空の宇宙から地上へと変わる。元は大都市だったであろう街は破壊され尽くし、埋葬されない遺体は道端に山になっていた。リシャンの足元にもうつ伏せに小さな女の子が倒れていた。リシャンは手を差し伸べようとしたが、その手は空をきって触る事は出来なかった。
昔、迷子の猫を一緒に探した少女の事を思い出す。足元の少女と重ねて考えてしまい、いたたまれなくなる。
=あの惨事から数世紀を経て、仮想世界プロジェクトが立ち上げられました=
破壊されたオゾン層から地上を守る為、上空にはシールドが張られている。この世界には見覚えがある。シャオティン達と戦乙女リシャンと戦ったあの世界だ。
そこには空間のキャパを超える人々が生活していた。食料の供給が間に合わず、幸福とは程遠い生活を強いられている。その塔の中、白衣を着た何人かの人が、討論を続けている。議題は仮想世界を作るにあたっての問題点についてのようだ。
=当時の世界にとって仮想世界は壮大なプロジェクトでした。ですが、この計画を進めない限り、人類は穏やかに滅亡していくしかありませんでした。ここに至って人類は初めて一つになりました。それが人類共同政府‥‥各国の指導者が集まり国の垣根を越えた組織の誕生です=
大きなテーブルを囲むように、全員が設立を祝って拍手をしている。皆、満面の笑みを浮かべており、人類の叡智を結集したからにはこれで問題は解決に向かっていくように見える。




