178 赤茶色の星
無限の通路の中にある無限のドア、その中の一つを開けて、リシャン達は室内に入った。
「‥‥‥‥」
リシャンは武器に手をかけながら素早く周囲を見渡す。
床は大理石に似ており、マーブル模様が広がっている。そこを踏む足音は酷く硬質的だ。
ゴミは全くなく、塵一つ落ちていない。この空間には細菌などの概念はないのだろう。
見渡す限り白い本棚のようなものが並んでいるが、それは本棚ではない。コンピューターを構成する部品の一部のようで、時々ランプの様な灯りの点滅がある。
「あそこだ」
コンソールを見つけたクロウがすぐにそちらに向かう。リシャンはクロウの歩く先に、危険がないか用心深く探りながら、自身も同じ場所へと移動した。
部屋は大きな八角形状で、その中央にこのパネルがある。椅子の対面には湾曲したディスプレイが六枚‥‥明らかに視覚の範囲より広い。
クロウは椅子に座った。中央のディスプレイに認証を促す画面が表示された。
言葉と数字を組み合わせた暗号のようなものを打ち込んでいく。すぐに画面上には思考中‥‥待機‥‥という単語が現れた。
「‥‥‥‥これが駄目なら‥‥あとは強行突破しかないな」
「‥‥‥‥」
表にいる武装した衛士と、侵入者駆逐用のロボット‥‥それらを一人で相手にする事は難しい。逃げるだけなら可能かもしれないが、その場合はクロウを置いていく事になる。
「良かった。ここもIDは使える」
宙に大きな半透明のディスプレイが浮かんだ。
「最初に、この世界の現状を確認してみましょう」
クロウは何かの数字や言葉を入力している。その意味はリシャンには分からなかったが、浮かんでいるディスプレイに言葉と画像が浮かび上がる。
「‥‥どう?」
「‥‥‥‥」
見ているクロウの顔が険しくなる。
「リアル世界が何処にあるか調べようとしたのですが、この階層では見当たりません」
「階層?」
「プログラムの上位と下位の区分のようなものです。上に行くほど重要な項目がありますが、セキュリティーが高くてそこの情報を読み取る事が難しくなります。現状、リアル生活者の区域は不明です」
「‥‥全体図は分かる?」
「大まかになら」
「判明している箇所を除いていけば、残りがそれって事にならない?」
「‥‥時間はかかりますが、やってみます」
クロウはしばらくキーを叩いていた。
「‥‥‥んー」
「どう?」
「大体のところは判明しましたが‥‥外部カメラを使用できますので、表示します」
「‥‥‥‥」
リシャンは宙の画面を見つめる。
大小さまざまなクレーターに広がる灰色の大地の上に、暗黒の空‥‥恐らくは宇宙が広がっており、近くに赤茶色の大きな星が映っている。
「あの星が‥‥地球のようです」
「‥‥じゃあ、ここは?」
聞かなくても予想は出来たが、念を押して聞いてみる。
「月‥‥ですね」
「‥‥そう」
統合政府は地球の全ての国家を集合して作られたと聞いていた。それがなぜ、月面にあるのか。




